1.ACEI/2.β遮断薬/3.アンジオテンシンII(AII)受容体拮抗薬(ARB)/4.抗アルドステロン薬
/5.カルシウム拮抗薬/6.アミオダロン/7.ホルモン補充療法/8.その他今後期待される治療

 心不全は,いまだに先進国において死亡あるいは入院の原因の主たるものであり,その治療戦略の確立が望まれている。すでにアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)の予後改善効果は多くの大規模臨床試験により明らかとなり,米国および欧州の心臓病学会による心不全治療のガイドラインにおいて,禁忌となる症例以外には投与することが,推奨されている。しかし,その予後改善効果は十分とはいいがたく,さらなる予後改善に向け,多くの大規模臨床試験が行われている。本稿ではこの1〜2年間に発表された臨床試験結果を中心にした,現在の心不全治療の動向につき概説する。

1.ACEI

 上述のごとく,ACEIの心不全患者の予後改善効果はすでに確立されているが,実際の使用量をみると,多くの医師が大規模試験で用いられている用量よりも少量しか用いていない。そこで,低用量と高用量でその効果に差異があるか否かを検討したものが,ATLAS試験である1)。NYHA II〜IVの症例を対象とし,lisinopril低用量投与群(2.5〜5 mg/日)と高用量投与群(32.5〜35 mg/日)を比較したところ,死亡および入院リスクの低下は高用量群において有意であり,副作用による投与中止症例数に差異を認めなかった(図1)。日本人に,ここまでの高用量の投与が必要か否かについては今後の検討が必要であるが,少なくとも,ACEI投与は低用量で維持するのではなく,可能な範囲内で投与量の増加を図るべきであると考えられる。

図1 低用量および高用量のlisinopril投与群における,死亡ないし入院率の比較
(文献1より引用)

2.β遮断薬

 本来は心不全患者には禁忌とされていたが,Waagsteinらが,少数例ながら拡張型心筋症患者において,β遮断薬が心機能改善,症状の改善を認めることを発表した2)。当初,あまりにも逆説的な治療であることから,この結果は受け入れられていなかったが,1990年代にはいり,いくつかの大規模試験でその予後改善効果が示されはじめた。1999年に報告された,bisoprololを用いたCIBIS II試験3),長時間作用型のβ遮断薬であるmetoprolol CR/XLを用いたMERIT-HF試験4)のいずれにおいても,予後改善効果が示された。αおよびβ遮断作用を有するcarvedilolについても,1996年に発表されたCarvedilol Heart Failure Study5)においてすでにその有用性は報告されている。1999年にアメリカ心不全学会より示された左室収縮不全(左室駆出率低下)を伴う心不全症例に対する治療指針では,β遮断薬は臨床的に安定している心不全症例には全例投与すべきである,とされている6)。ただし,その投与は慎重に少量から開始されなくてはならない。NYHA IVの重症心不全症例に対する投与についてはいまだ議論のあるところではあるが,2000年8月に開かれたEuropean Society of Cardiologyにおいて,NYHA IVの重症心不全症例2289例を対象としてcarvedilolの有効性を検討したCOPERNICUS試験の結果が報告され,虚血性,非虚血性かにかかわらず,carvedilolは死亡リスクを低下させることが確認され,さらにcarvedilol服薬群の方が有害事象も少ないことが明らかとされた(図2)。COPERNICUS試験の結果は,重症例においても積極的にβ遮断薬を用いるべきであることを示唆しているが,従来のβ遮断薬を用いた臨床試験において,このような重症心不全症例における有効性が必ずしも示されていないことから,このような効果はβ遮断薬に共通するものではなく,carvedilolに特有のものである可能性もあり,今後の検討が待たれる。

図2 Carvedilol投与群と非投与群における生存率の比較
(COPERNICUS試験,第22回European Society of Cardiology, 2000年8月)

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