臨床研究の動向2002_ONLINE JPT

[1.アミオダロンによる陳旧性心筋梗塞,
心不全例の生命予後の改善
]
[2.植え込み型除細動器] [3.心房細動の抑制]


2.植え込み型除細動器

 大きな期待をもってさまざまな臨床試験が行われたアミオダロンであるが,その生命予後改善効果は強力なものではない。そこで,致死性の心室性不整脈である心室頻拍,心室細動に対する最後の手段として植え込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator,以下ICD)が臨床の現場に登場した。これまでに6つの大規模試験の結果が報告されたが,上述のアミオダロンの場合と同様に対象の条件はさまざまである。二次予防試験(CASH8),AVID9),CIDS10))では対象の条件はほとんど共通しているが(心室細動,血行動態不良な心室頻拍,蘇生例),一次予防試験では対象,治療選択肢に差がみられる。

 一次予防試験のうち,非持続性心室頻拍があり電気生理検査で心室頻拍などが誘発された例を対象にしたMADIT11)とMUSTT12)では,ICDによって死亡率が有意に抑制された。しかし,心機能低下例で心室遅延電位が陽性の冠動脈バイパス術施行例(これらは突然死の危険が高い)を対象にICD治療の有無で比較したCABG-Patch試験13)では,ICDの予防的植え込みの効果は認められなかった。したがって,現時点ではICD治療は致死性心室性不整脈の存在が確認された例に限るべきである。なお,一時予防試験としてDINAMIT14)が現在進行中である。この試験は,急性心筋梗塞後の例で,左室機能低下(駆出分画35%以下)と心臓自律神経機能の障害(心拍変動の低下)あるいは心拍数増加がみられるものを,ICD植え込み群と非植え込み群に分けて比較するものである。リスクの高い例でICDによる不整脈死の抑制が全死亡の抑制に結びつくか否かを検討する試験で,2003年に試験が完了の予定である。

 心室細動,血行動態不良な心室頻拍例を対象にした二次予防試験ではCIDS10)のみがICDの有効性の傾向を示すに留まったが,AVID9)ではICDによって全死亡の抑制,CASH8)では突然死の抑制が認められた。3つの二次予防試験の症例を用いてICDの効果をアミオダロンと比較したメタ解析15)が報告された。AVIDは対象が1000例を超すが早期に試験が中止され追跡期間が約1年半と短いという問題がある。CASHは追跡期間が約4年半と長いが,対象が200例に満たないという問題がある。CIDSは追跡期間が約3年であり,対象は650例余りと他の2つの試験の中間の特徴がある。これらの3つの試験の短所を補うという点でメタ解析は意味がある。

 メタ解析では3つの二次予防試験でICD(934例,63歳)あるいはアミオダロン(932例,64歳)に割り付けられた症例について平均2.33年の追跡期間での全死亡,不整脈死を検討した。その結果,全死亡(危険率0.73,p<0.01),不整脈死(危険率0.49,p<0.001)ともICD群で有意に低値であった(図215))。アミオダロンに比べてICDによる生存期間の延長は,3年では2.1ヵ月,6年の時点では4.4ヵ月という結果であった(3年より短い追跡期間では生存期間の延長効果は明らかではない)。

 アミオダロンと比較してICDによる死亡率の抑制率は絶対値として3.5%/年であり,29例にICDを植え込むと1年間に1例の死亡を抑制できることになる。また左室機能について層別解析を行うと,駆出分画が35%以下の例でICDの効果がアミオダロンに勝り,心機能が比較的保たれている例(駆出分画>35%)ではICDの有効性は認められなかった(図3)。アミオダロンの項で述べたように,アミオダロンは低心機能例での生命予後改善効果が期待できず,このような例でこそICDの効果が期待できる。

図2 植え込み型除細動器とアミオダロンの比較
左は全死亡,右は不整脈死。アミオダロンに比べて除細動器の死亡率が低い。文献15より引用。
図3 アミオダロンと植え込み型除細動器の死亡率に与える効果の比較
左室駆出分画が35%以下の群において除細動器の効果が認められる(右)が,
駆出分画の比較的保たれている例では2つの治療群の間に死亡率の差はみられない(左)。
文献15より引用。

前のページへ

次のページへ