>   >   >  Framingham研究
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第11章
老年まで生存できるための要因は何か

 Framingham研究では,癌,心血管疾患あるいは糖尿病を有さない50歳の男性747例,女性973例の検査を行い追跡し,75歳まで生存するための要因を検討した。男性,女性ともに喫煙量が少なく,収縮期血圧が低く,強制肺活量が高値を示すことがあげられ,男性では心拍数が低く,女性では両親が75歳まで生存していたことがあげられている(Goldberg RJら,1996) 71)71) Goldberg RJ, Larson M, Levy D. Factors associated with survival to 75 years of age in middle-aged men and women. Arch Intern Med 1996; 156: 505-9.。これらの成績は,中年男性および中年女性において血圧管理と禁煙の重要性を示唆し,健康活動の向上の根拠となると考えられる。なお,過剰な体重やBMI(body mass index)が体脂肪のおおよその指標になると推測されるが,Framingham心臓研究では,72〜95歳の753例につき身体的な廃疾状態と骨格筋量および体脂肪の関係を横断調査したところ,体脂肪が最も多い3分位の女性の廃疾状態の危険度は最も低い3分位の女性と比較して2.69となり,同様に男性では3.08となると報告され,年齢,身体活動性,筋肉量,教育歴,アルコール摂取量では説明できなかった(骨格筋量の少ない症例が本試験以前に脱落し症例に含まれなかった可能性を否定できない)(Visser Mら,1998) 72)72) Visser M, Harris TB, Langlois J, Hannan MT, Roubenoff R, Felson DT, et al. Body fat and skeletal muscle mass in relation to physical disability in very old men and women of the Framingham Heart Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 1998; 53: M214-21.

 飲酒に関しては,Framingham研究の対象5209例を20年間観察したところ,アルコール摂取量は63%増加し,その増加は女性で大であった。アルコール摂取量が増加すると軽度に尿酸値と血圧が上昇したと述べられている(Gordon Tら,1983) 73)73) Gordon T, Kannel WB. Drinking and its relation to smoking, BP, blood lipids, and uric acid: the Framing-ham study. Arch Intern Med 1983; 143: 1366-74.。しかし,同研究対象の男性733例,女性1053例につきアルコール摂取量と認知機能の関係を調査すると,女性では中等量の飲酒者の認知機能は良好であり,男性でも飲酒者の認知機能は良好であった(Elias PKら,1999) 74)74) Elias PK, Elias MF, D'Agostino RB, Silbershatz H, Wolf PA. Alcohol consumption and cognitive performance in the Framingham Heart Study. Am J Epidemiol 1999; 150: 580-9.。同研究対象を6.8年追跡し,間歇性跛行の相対危険度とアルコール摂取量の関係をみると,男性では13〜24 g/日,女性では7〜12 g/日で間歇性跛行の頻度は最も低く,非飲酒者と比較してそれぞれの相対危険度は0.67,0.44であった(Djousse Lら,2000) 75)75) Djousse L, Levy D, Murabito JM, Cupples LA, Ellison RC. Alcohol consumption and risk of intermittent claudication in the Framingham Heart Study. Circulation 2000; 102: 3092-7.。さらに同研究対象のうち老年者1154例を16年間追跡すると,アルコール摂取量が少なくとも7 oz(206.99 mL)/週飲用している女性の骨密度は1 oz(29.57 mL)/週未満と比較して7.7%高かった。男性でも同様の傾向が認められた(Felson DTら,1995) 76)76) Felson DT, Zhang Y, Hannan MT, Kannel WB, Kiel DP. Alcohol intake and bone mineral density in elderly men and women: the Framingham Study. Am J Epidemiol 1995; 42: 485-92.。すでに同研究では軽度のアルコール摂取男性では非飲酒者と比較して最も死亡率が低いと報告されていることから(Gordon Tら,1984) 77)77) Gordon T, Kannel WB. Drinking and mortality: the Framingham Study. Am J Epidemiol 1984; 120: 97-107.,適量のアルコールの有用性を否定するものではなかった。

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