■治療学・座談会■
高血圧治療ガイドラインの評価
出席者(発言順)
(司会)島田和幸 氏 自治医科大学循環器内科 教授
久代登志男 氏 駿河台日本大学病院循環器科 助教授
平田恭信 氏 東京大学医学部循環器内科 講師

降圧薬の選択基準

■ Ca拮抗薬とACE阻害薬を選ぶ理由

島田  ガイドラインは,降圧薬の選択基準に関しては,日本独自のものを出している部分があると思います。 たとえばCa拮抗薬やACE阻害薬,あるいはAII受容体拮抗薬に至るまで,つい最近開発された薬をわりと前面に出して,利尿薬やβ遮断薬などはそれほど強調していない印象があります。 現在の使用頻度が高いということ自体,それはいい薬なのだ,しかも理論的にも正しいから,ということなのでしょう。

 これは当然,医療経済のことも考慮している部分があるのではないかと思いますが,全体の高血圧診療を眺めてみた場合に, これ以外でなぜいけないのか。 いろいろな降圧薬を比較した最近の臨床試験,STOP−Hypertension(Swedish Trial in Old Patient with Hypertension)2や ALLHAT(Antihypertensive and Lipid Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial), CAPPP(Captopril Prevention Project)などによっても,降圧薬による差はあまりみられませんでした。 それでもやはりCa拮抗薬がいいのだという主張はうなづけますが, はたしてガイドラインとしてこれでいいのかなと思うようなところも,正直いってあります。

久代  高血圧の治療目的は血圧を下げることではなく,臓器障害の予防改善です。 そのために最もいい薬は何かということが問題になります。島田先生がおっしゃったように,集団でみるとそれほど大きな差はないかもしれません。 しかし個々の患者の病態を考えると,たとえば糖尿病や虚血性心疾患を伴う場合には,よりよい薬が示されているわけです。

 第1選択降圧薬として最も重要な要件は何かということを,数年前に東大の上原先生がアンケート調査されました。 その結果では,副作用がなく血圧が下がるものがよいという答が強く出てきています。欧米では臓器障害をどれだけ予防できるかというエビデンスがより重視されているようです。 そのようなスタンスの違いも日本でCa拮抗薬が多く処方されている理由になっていると思います。 降圧目標を達成するうえで,降圧効果に優れ使用禁忌がほとんどないCa拮抗薬は有用な薬剤です。 しかし,第1選択薬として使用する場合には,臓器保護を視野に入れながら,どのような病態の患者にCa拮抗薬が最も適しているのか,もっと配慮してよいと思います。

平田  おっしゃるとおりだと思います。ガイドラインには薬の種類と同時に,積極的な適応ということが書いてあります。 これはJNC VIあるいはWHO/ISHとも同じ内容です。この部分をもう少し強調し,幅広く一般の方にもわかりやすく示すのがいいのではないかと思います。

 JNC VIは利尿薬,β遮断薬を強調していますが,私は反対です。1つは,日本ではβ遮断薬は必ずしも安くはないということもあり, 医療経済面の理由だけでは説得力はあまりありません。さらに利尿薬,β遮断薬を使いにくい患者がかなりいるのも事実なので,私はいろいろな薬を幅広く使えるようにしておき, そのうえで,このような患者にはこの薬がいいですよということを,もう少し幅広く明示すべきではないかと思います。

島田  たしかにCa拮抗薬とACE阻害薬は広範に非常に使いやすいということはありますが, 患者の病態によっては利尿薬やβ遮断薬もずいぶん奏効する場合があります。あまり縛られずに使っていきたいというのが,臨床医の願望ではないかと思います。

■合剤について

島田  降圧目標に関しても,たとえば若年者や中年者に関しては130/85mmHg未満, 収縮期血圧は140mmHgや90mmHg,高齢者は140mmHgや160mmHgといったように,より低くしようとしています。 従来150mmHgぐらいならまあいいかなと思っていたのを,もう少し踏み込んでより下げようという方向です。 そうすると単独療法でそこまで持ってくることは難しいので,合剤を推奨することになりますが,それはそれでいいのでしょうか。

久代  高血圧患者の半数以上は単剤で降圧目標に到達することが困難と思われます。 また,利尿薬による低カリウム血症はACE阻害薬,β遮断薬による四肢冷感と代謝に対する副作用はα1遮断薬で軽減できるなど, 併用療法は降圧効果以外のメリットもあります。多剤併用療法を複数の錠剤で行うか,1剤で済ませるかになりますが, 患者の側からすれば錠剤数は少ないほうが服用しやすいはずですし,そのほうが安価であれば歓迎されると思います。 今は7種類以上の薬剤を処方すると支払いが減るしくみになっていますが,将来は今よりも処方薬剤数を減らすような政策誘導が行われるかもしれません。 合併症の多い患者では,降圧薬だけで何種類も処方しにくくなると思われます。ただ,降圧目標まで下げることは重要ですが, そこに到達するまでの時間は急ぐ必要はないわけです。最初から合剤を使用するよりは,単剤で降圧不十分な場合に, 他の薬剤を併用するよりは合剤を使用するという時代は来ると思います。

平田  合剤の場合,配合比をいろいろ調整できるようにしたいと思います。 たとえば,利尿薬とβ遮断薬の組合せで,β遮断薬が1錠だったら,利尿薬は1/2が含まれているものや, 1錠が含まれているものなど,いろいろあってもいいのではないでしょうか。

前のページへ
次のページへ