■治療学・座談会■
心筋虚血の検出−いかにより早期にかつ正確に検出するか
出席者(発言順)
(司会)百村伸一 氏 虎の門病院循環器センター内科
清野精彦 氏 日本医科大学第一内科助教授
前原晶子 氏 虎の門病院循環器センター内科
石田良雄 氏 国立循環器病センター放射線診療部アイソトープ診療科

慢性虚血の検出法

■SPECT と同等のエコーの診断精度

百村 一般的な虚血の検出法に関しては,核医学やエコーに加えて CT や MRI などいろいろな方法が試され,使われるようになってきましたが, 慢性虚血の検出法において,簡便さ,その他の点から基本になるのは心エコーだと思います。 エコーでの検出に関し,前原先生,お願いします。

photo2 前原 負荷エコーには大きく分けて,運動負荷,薬物によるβ刺激薬のドブタミン負荷,ジピリダモールなどの拡張薬による負荷の 3 つがあります。これらは核医学検査と同等の感度,特異度をもっていますが,血管拡張薬を使った負荷はやや感度が落ちるようです。 米国では核医学検査より負荷エコーのほうがコストが安いので日本人より多く行われているようです。 たとえば Hainle らは 2000 年の Circulation 誌で,123 人の患者にオプチゾンという造影剤を用い,アデノシンによるストレスエコーを行ったところ, Sestamibi との一致率は全体で 81%であったと報告しています。

 さらに Shimoni らは,2001 年に運動負荷後オプチゾン投与を行い,コントラストエコーによる灌流(虚血)と壁運動を評価し, QCA(quantitative coronary angiography)による冠動脈病変の有無をゴールドスタンダードとして核医学検査と比較したところ, 感度は 75%,特異度は 100%で両者はほぼ同等であったと結論しています。

■診断精度に優れるテクネシウム核医学検査

百村 まだわが国ではレボビスト(超音波診断用造影剤)しかコントラストエコーで使えないので, それは将来的に問題になると思いますが,機能と灌流の両方をみるということは非常に重要です。 そのような点でいつもスタンダードになるのは核医学検査だと思います。石田先生,核医学の現状はどうでしょうか。

石田 運動負荷(薬剤負荷)心筋血流 SPECT 検査は,冠動脈疾患の非侵襲的診断法としてすでに臨床に定着し重用されています。 最近では,虚血徴候がなくても冠危険因子が重積する症例に対してスクリーニングテストとして利用される機会が増えていますし, また PCI の普及によって術後再狭窄の診断に広く利用されるようになりました。

 心筋血流 SPECT 検査では,ご存知のように血流依存性に心筋に分布し捕捉される放射性医薬品が用いられます。 従来から Tl が使用されてきたわけですが,最近では 99mTc-MIBI や 99mTc-tetorofosmin の使用に置き換わりつつあります。 低エネルギー核種であり半減期が長いため大量投与が困難な Tl では,体組織による吸収効果によるアーチファクトによって偽陽性所見を生むという問題がありました。 男性では横隔膜による下壁の集積低下像,女性で乳房による前壁の集積低下像の出現が大きな問題でした。  99mTc 標識製剤はこの問題を軽減し診断特異度の向上につながることが確認されています。 最近の米国での大規模試験によると, 99mTc-MIBI を用いた負荷検査による冠動脈疾患の診断能は,感度 90%,特異度 93%と報告され,Tl の場合の感度 83%,特異度 83%に比べて優れていることが示されています。

 99mTc 製剤のもう 1 つの特徴として,先ほども少し触れましたように, 心電図 RR 間隔を 8 から 16 分割した心電図ゲート SPECT 像が通常の検査時間内(約 20 分)で撮像できることがあります。 これを用いると,拡張末期から収縮末期への局所の壁厚増加がイメージカウントの増加として捉えられるので, 非同期画像で観察された固定性欠損が吸収によるアーチファクトか,あるいは心筋線維化巣(梗塞巣)かの鑑別に役立ち, 診断特異度のさらなる向上に役立ちます。 また,各心時相の心筋 SPECT 像を用いて,左室心筋の輪郭を抽出し左室容積を計測する優れたアルゴリズム(quantitative gated SPECT:QGS)が 1995 年に Germano らによって開発され, その計測の信頼性が確認されるなかで,心筋血流像と同時に左室機能計測を行うプロトコールが普及してきました。 図 1 のように,本プロトコールを運動負荷検査に適用しますと,負荷誘発の血流欠損と心機能低下の両所見に基づいて,冠動脈疾患の重症性を認識できます。 このように, 99mTc 標識製剤の利用は冠動脈疾患の診断において非常にメリットがあります。

図1 99mTc-MIBI を用いた心電図同期心筋血流 SPECT による心筋血流・心機能の同時評価
55 歳,男性,心筋梗塞+労作性狭心症。LAD #6 90%,RCA #2 75%。
血流像では運動負荷時の広範囲な血流欠損と一過性内腔拡大が,QGS では左室駆出率の低下が観察され,虚血の重症性が確認できる。

 さらに,核医学では,13N-NH3あるいは15O-H2O を用いた PET による局所心筋血流量の計測法が進歩してきています。 安静時とジピリダモール負荷を利用し,局所 CFR(冠血流予備能)にもとづいて,微小冠血管から始まる冠動脈硬化を早期診断する試みがあります。 また,寒冷負荷を用いて冠血管の内皮障害を診断しようとする試みも注目されています。定量性の向上への取組みが,今後の核医学による心筋血流診断の大きな課題と考えられます。

百村 エコーの利点と核医学の利点,あるいは両者の欠点を比較するとどうなるのでしょうか。

石田 超音波法で冠動脈病変を検出する方法として,ドブタミン負荷法を利用して負荷誘発の壁運動異常を心エコー図から観察する方法, レボビストなどの超音波造影剤を用いるコントラストエコー法,ドプラー法を用いて安静時から ATP 負荷時への冠血流量の変化を計測する方法などが試みられています。 これらの方法は簡便性という点で核医学検査よりも優れていますが,最も普及している第一の方法では, 壁運動異常の視覚的検出が術者の習熟度に依存し,判定における客観性に乏しいという印象をもっています。

百村 だれがみても正しい診断が得られるというわけにはいかないのですね。

石田 コントラストエコー法は,近年,肺通過性の高い優れた造影剤の開発が進んでおり,期待がもたれます。 米国ではレボビストに代わりオプチゾンが開発され,臨床試験では従来に比べて優れた診断能が報告されています。 しかし,左回旋枝領域の感度が悪いなどの制約もあり,臨床応用の可能性はまだまだ未知数でしょう。ATP 負荷ドプラー法についても,左冠動脈の計測に限られるという問題があると聞いています。

 これらのことを考えると,核医学は,簡便性にはやや難があるものの,検査の再現性ならびに診断の客観性に優れ, 左室全体にわたって局所的な心筋血流異常を三次元的に映像化できる点で診断精度は非常に高い。虚血診断における核医学の地位は揺るがないと思います。(笑)

■BMIPP,BNP,N 末端プロ BNP

百村 日常診療では Tl シンチあるいは Tc 製剤で済ませてしまうことが多いと思いますが,血流のトレーサー以外の核種についてはどうなのでしょうか。

石田 特に虚血性心疾患では123I-BMIPP をどのように使用するかが課題でしょう。虚血性の脂肪酸代謝障害を描出するこの方法は, 先に急性虚血への応用を話しましたが,慢性虚血ではどのように使用すればよいか。 慢性冠動脈疾患では,安静時の 123I-BMIPP SPECT で局所欠損が観察される場合,その領域は運動負荷時の血流欠損にほぼ一致することが示されています。 そこで当初は運動負荷血流 SPECT に代えて冠動脈病変の検出に利用できるとの見解が出されましたが,その後,診断感度がかなり劣ることがわかり,使用されなくなったという経緯があります。 しかし,われわれは左室駆出率が 40%未満を示す重症冠動脈疾患例では,123I-BMIPP 欠損を呈する症例の頻度が非常に高く,血流欠損がある場合でもそれよりも拡大した欠損が観察されることに注目してきました。 冬眠心筋(電位は保たれバイアビリティが存在するが,壁運動は高度に低下している)の病態が加わるこれらの症例では脂肪酸代謝障害が顕著に現れることが,おそらくその背景にあるのでしょう。 これは, 123I-BMIPP 局所欠損が非常に稀な拡張型心筋症とは対照的な所見であります。 したがってわれわれは,運動負荷が困難な重症心不全のケースで冠動脈疾患を拡張型心筋症から鑑別する手法として,この 123I-BMIPP 検査を使用することを提唱しています。

百村 生化学マーカーに関して慢性の虚血,あるいは慢性の心筋障害の役割はどうでしょうか。

清野 虚血性心疾患慢性期では,2 つの問題が指摘されています。1 つは先ほどおっしゃっていた再梗塞, あるいは梗塞後の狭心症についてどれぐらいリスクがあるか。 胸痛やイベントがあったときには,心筋傷害マーカー,TnT や H-FABP マーカーで判断されますが,むしろ私がいま注目しているのは,BNP と N 末端プロ BNP による評価です。

 これらは,壁ストレスや心肥大で高値を示しますが,実は虚血性心疾患で,虚血がずっと続いている症例で高値を示しているという成績も発表されています 。決して胸痛は訴えないが,虚血による心機能異常が続いているということが示唆されるという考え方です。

 日本では,BNP は心不全の一般的な検査法として実地臨床の場で活用されています。 虚血性心疾患で,完全に PCI で再開通を得られている症例はいいのですが,PCI をやらなくてもいいだろうということで,外来でフォローされているような症例で, BNP 高値が遷延している場合,心機能があまりよくないというときにはそのような慢性的虚血によるスタンニングもしくはハイバネーション(冬眠心筋)を評価できるかもしれません。

■左脚ブロックにはジピリダモール負荷が有効

百村 左脚ブロックで Tl 負荷を行ったら前壁が抜けるという場合,精度を上げるにはどのような工夫がいるのでしょうか。 AHA/ACC のガイドラインでは薬物負荷のほうがいいと書いてありますが,どうなのでしょうか。

石田 負荷心筋血流 SPECT によって器質的な冠動脈病変を検出する際には,病態によっても偽陽性所見が出現することに注意が必要です。 ご指摘の左脚ブロックがその代表ですが,そのほか肥大型心筋症や冠攣縮性狭心症でも偽陽性所見がしばしば観察されます。

 左脚ブロックでは,中隔部は刺激伝達の遅れによって心筋弛緩のタイミングが後ろへずれるため,拡張期の血液流入にとっては不利な状況にあります。 運動負荷では,心拍数が増加し拡張期が短縮するに伴いこの影響がより顕著となり,中隔部は自由壁に比べて相対的に血流が低下する現象が生じます。 これが,左脚ブロック例では運動負荷心筋血流 SPECT で中隔部欠損が生じる原因と考えられており,実際に左冠動脈狭窄の診断に支障があります。 そこで,運動負荷ほどには心拍数を増加させないジピリダモール負荷(ペルサンチン負荷)が推奨されているわけです。 私どもの病院でも,左脚ブロックの症例には,喘息など禁忌がなければジピリダモール負荷を使用することにしています。

百村 右脚ブロックはありませんか。

石田 右脚ブロックの場合も偽陽性の欠損像を呈する症例が散見されますが,その部位は必ずしも一定しないことが報告されています。 左脚ブロックならびに右脚ブロックの症例の場合にもう 1 つ注意が必要なのは,心筋症に合併して同異常が発生しているケースです。 拡張型心筋症では左脚ブロックの頻度が高く,心サルコイドーシスでは右脚ブロックの頻度が高いことが知られていますが, これらの疾患では心筋傷害自体を反映した欠損像が観察されることがあります。

百村 例えば虚血性心筋症の患者に再同期療法を行うと偽陽性がなくなるというような可能性もあるかもしれませんね。

■精度の高い PET によるバイアビリティ評価

百村 PETはコストがかかるし,どこでもできるわけではありませんが,血流が定量的に測れて代謝の面でいろいろな評価ができ,信頼性が高いということが特長だと思います。 PETの現状あるいは意義について,石田先生,簡単にレビューしていただけますか。

石田 PET の心臓応用としては,18F-FDG PET と13N-NH 3PET が最も普及しています。 18F-FDG はグルコーストレーサーであり,空腹時の撮像で虚血心筋の糖利用亢進を陽性集積像として描出することができます。 虚血性心疾患で最も利用価値が高いのは,慢性冠動脈疾患患者に冠血行再建術を実施する際の心筋バイアビリティ評価です。 一般臨床では血流 SPECT による評価が行われているのですが,梗塞部や高度狭窄病変部では診断能に限界があるため, 代謝能の残存性に基づいて鋭敏に評価できる 18F-FDG PET の価値は非常に重要です。 糖負荷条件下で心筋18F-FDG 集積分布を観察し,血流分布に比して高集積を示すミスマッチ現象の存在に基づいてバイアビリティの判定が行われます。 その優れた診断能により,最近では SPECT 装置で18F-FDG 像を撮像する技術の開発も進んでいます。

 一方,Tl や99mTc 標識血流製剤と同様に血流診断を目的とした13N-NH3PET では,SPECT に優る価値として, 局所心筋血流量の実測とそれに基づく冠血流予備能評価が注目されています。 ダイナミック収集とコンパートメントモデル解析による血流量計測法が確立され, ジピリダモール負荷法や寒冷負荷法を用いて微小冠血管の動脈硬化や冠血管内皮傷害などの病態観察が行われ, 成果が得られています。高脂血症例ではコレステロール低下治療により冠血流予備能の改善がもたらされる, との興味深い成績も報告されています。

百村 ジピリダモール負荷ですと内皮非依存性ということになるのですね。

石田 ジピリダモール負荷による冠血管拡張は血管内皮依存性と平滑筋依存性の反応が加わると考えられ, そこで内皮依存性の反応を独立して検出すべく,心カテーテル法で導入されているアセチルコリン冠注法に代わる負荷として寒冷負荷法が導入された経緯があります。  13N-NH3 PET は,このように心筋血流障害の病態をより詳細に観察しうる可能性をもっていますが, 計測法が一般化していないことが現在の大きな問題で,どの施設でも安定した計測値が得られるように,今後は計測法の標準化が必要と思っています。

■安価で解像度がいい MRI

百村 最近,非常に普及してきている機器として CT,MRI があります。虚血の評価に関しての将来性, あるいは従来の方法にのメリット,デメリットに関してはいかがでしょうか。

前原 MRI の長所は核医学検査に比べて解像度に優れる点で,約 60 倍といわれています。ゆえに,心内膜下虚血がみえます。 また,Circulation 誌(2001)に報告されていますが,例えば CK が 300 しか上昇しなかった心筋障害でも, MRI では描出可能です。核医学やエコーと比べてあまり技術の巧拙はなく,だれでもある程度同じように診断できるというメリットがあります。 心筋障害(バイアビリティ)を評価する方法として late enhancement という所見があります。 ガドリニウムは細胞外スペースに拡散によって広がりますから,障害心筋ではこの細胞外スペースが広くなっており,またガドリニウムの排泄の遅延があり, 以上より遅延造影像として認められます。虚血という観点からいうと,たぶん,多枝病変より強いと思われます。 といいますのは,核医学は相対的な像をみているので,3 枝病変,いわゆる balanced disease という状態で,異常として描出できないことがあります。 エコーによるドブタミン負荷では,例えば 2 枝病変があって,狭窄度の強いほうでまず虚血が出て胸痛が出現すると,それがエンドポイントとなって負荷をやめてしまうので, もう一方の評価ができないことがあります。

 さらに,エコーのように,太っている患者,肺気腫がある患者で画像が悪くなるということはありませんし,核医学よりは安い検査ということになります。

 冠動脈の描出ということに関しては,一昨年(2001 年)New England Journal of Medicine 誌に MRI による冠動脈の評価におけるマルチセンター・スタディの結果が出ました。 冠動脈の近位部,出位部だけの評価ですが,左主幹部病変,3 枝病変の抽出に関しては感度 100%,特異度 85%の良い結果が出ています。

 現在,心臓 MRI の専門家たちは,1 時間くらいで心臓の全評価をされているようです。 さらに造影剤を使わないで冠動脈も観察すれば,虚血性心疾患のスクリーニングがすべて可能になるわけです。

百村 エコーも核医学もそうですが,1 つの方法で,血流,形態,機能などいろいろなことを評価する,というようなことがこれからは可能になってくるのでしょうか。

石田 MRI では,ストレステストの実施が困難な点が残念なような気がしますが。

前原 16 列の multi-detecter raw CT が開発されたことにより,CT coronary angiography の可能性も出てきたようです。 ただ,不整脈の対応はまだ開発段階で,右冠動脈は心臓の拍動に伴う動きが大きいので,改善の必要性があるようです。

石田 呼吸の影響を避けるための息止めや心臓のモーションの影響を避けるための心電図同期収集などが, 冠動脈狭窄の描出には不可欠のようですね。冠動脈の動きは必ずしも心臓のモーションに追随しないという報告もあり,なかなか難しい問題があるようですね。

■侵襲的な検査法の意味

百村 最近一部で,NOGA システムという,電気生理学的な評価と機械的な評価とが同時に可能な侵襲的手法が使われ始めており, 特に遺伝子治療と組み合わせてかなり使用されています。あれは何か理由があるのでしょうか。

石田 VEGF などの血管成長因子の mRNA を用いた血管新生遺伝子治療が米国で開始され, NOGA システムの利用がクローズアップされています。NOGA には,カテーテル操作により心内膜面の電位マップと壁運動マップが作製できる利点があり, 血管新生が必要な冬眠心筋の部位を正確に認識でき,またその部位においての治療後の壁運動改善をモニターできるというメリットがあります。 さらに,NOGA のもとでカテーテル法により対象部位へ遺伝子注入を行うことも将来は可能となるでしょう。 血管新生遺伝子治療は,わが国でも臨床試験が進みつつあります。 大阪大学では HGF を用いた治療法が検討されています。この遺伝子治療の進歩に伴い,対象部位を正確に認識すること,同部位に正しく遺伝子を導入すること, その効果を時系列的に観察することなど,画像診断法への新しい課題が生まれてきたように思います

 
前のページへ
次のページへ