■治療学・座談会■
睡眠時無呼吸症候群の診断をめぐって
出席者(発言順)
(司会)飛田 渉 氏 東北大学保健管理センター
高崎雄司 氏 太田綜合病院 睡眠センター
名嘉村博 氏 名嘉村クリニック
佐藤 誠 氏 筑波大学大学院人間総合科学研究科睡眠医学講座

診療システム構築の重要性

■先進的な取組みの実態

飛田 SAS の診療にあたってのご苦労を,ざっくばらんに伺いたいのですが。

名嘉村  私は一般のクリニックですが,システムで診療するのが特徴です。 6,500 人ぐらいの患者に 1 万回くらいの PSG をしています。それもすべてフルモニタです。職員は 50 人くらいで,うち 40 人が睡眠診療に関わっています。 検査技師もフルタイム 7 人,パートタイム 12 人ぐらい。医者も常勤 3 人,非常勤 8 人で年間 1,700 件ぐらい PSG をしていますから, 1 日だいたい 8 人。検査技師が検査だけではなく,患者の CPAP の説明や苦情処理もしている。もちろん,看護師もしていますが。 システムエンジニアが 2 人いて,クリニックを開設して以来の 1 万件を PSG ですべてデータベース化して電子カルテに取り込み,患者への説明もすぐできます。 診療の苦労よりもシステム構築と維持の苦労が大きい点が,他の診療所とは少し違うかもしれません。

飛田 高崎先生はいかがですか。

高崎 SAS 診療システムを作り上げるまでは,自分自身が泊まって検査し, SAS だと診断したら負荷圧を決め,説明まで全部自分でしていました。ですから当時はせいぜい月に 1 人か 2 人を診るのが精一杯でしたのでこの状況をどうにかしたいと思いました。 SAS 診療を大学で行うならインパクトがあるので,東海大学に在職していたときに専用病室を準備してもらいましたが,検査技師の協力が得られませんでした。 その後に移った日本医科大学でも器はつくってくれましたが,やはり技師の協力が得られず,研究費から検査技師を雇う格好でした。それで年間 70 件ぐらい。

 もっと効率的な SAS 診療を行いたいと思っていたところ,太田保世先生が東海大学を辞めて太田綜合病院に移られ, 睡眠センターを作りたいから私に協力してほしいとの話がありました。これは乗るしかないだろうと思って現在に至りました。 ここで非常によかったのは,技師の協力が得られたことです。それと専用病棟や検査室などのシステムがうまく動き始めました。 私が 1986 年に留学したとき,トロントではすでにこのシステムができあがっていました。日本でもそのシステムができない限り,カナダやアメリカのレベルには追いつかないというのが実感です。 

 また SAS で CPAP 治療となった患者は毎月受診させるという日本独特のシステムがあります。 患者の中には来てくれそうもない者が常にいます。そういう患者をいかに受診させるか。それが苦労の大部分かと思います。

■困難が多い国立大学病院

飛田 佐藤先生は最近,大学に講座を立ち上げられました。ご苦労も多いと思いますが。

佐藤 昨年(2005)まで新潟県で診療をしていましたので,その現状からお話しします。 高崎先生がおっしゃるように,医師が PSG 検査装置の着脱から結果の解析まで行わなくてはならないため, 1 ヵ月の PSG 検査件数が一桁台の大学病院(とくに旧国立大学)が,現在でも多いのではないでしょうか。 新潟大学附属病院も同様でした。 先ほども述べましたが,新潟大学の SAS 外来を受診する患者はたくさんいるのに,全例を大学病院で PSG 検査をするのは無理であるという事実から, NiSDA というネットワークシステムを作りました。 SAS の診療を目的に大学病院を受診した患者の PSG 検査を,お住まいの近隣でネットワークに参加している病院で行い, 結果説明や CPAP などの治療導入は大学病院で行うというシステムです。ネットワークに参加している病院の個室に PSG 装置を置いていただき, トレーニングされた検査技師が装着し,朝になったら看護師が外します。フルアテンディングではありません。 PSG 装置はリースで,PSG 検査の解析はベンチャーの解析会社に委託するので,病院の人的,金銭的負担は少なく,1 泊 2 日の入院扱いになりますので, 有床率は上がり,平均在院日数は減るというネットワーク病院としてのメリットもあります。現在では新潟県の 10 病院 13 ベッドで, 月平均 150 件近い PSG 検査が行われています。ネットワークを開始した 1999 年 8 月から 2006 年 3 月末までに,6,050 人に対して延べ 8,742 回の PSG 検査が行われ,5,060 人が SAS(AHI≧5)と診断されました(表 1)。

表1 PSG 検査 8,742 件の内訳(1999 年 8 月〜2006 年 3 月)
(NiSDA 内部資料より)
検査患者総数(男/女) 6,050 人(4,752/1,298)
年齢 50±16.1 歳(0〜94 歳)
検査を 3 回以上受けた患者数 890 人
検査を 4 回以上受けた患者数 345 人
SAS 患者数 (AHI≧5) 5,060 人(4,123/937)
(AHI≧20) 3,241 人(2,764/477)

 ただ,仮に新潟県の人口の 2%(約 5 万人)が SAS だとすると,まだ 1/10 ぐらいしか診断されていないことになります。 それでも,対人口比でみると,名嘉村先生の沖縄県に次いで多くの患者さんに PSG 検査が行われているのではないかと自負しています。   昨年 4 月に筑波大学に新設された睡眠医学寄付講座に移動しました。 PSG 検査装置の購入,部屋の改築,検査技師の手配も,すべて寄付講座で行うことで附属病院と協議をした結果, PSG 検査を行える個室を 2 部屋いただくことができ,6 月から検査を開始しました。 患者さんは,夜 7 時に来院し翌朝には帰宅が可能なシステムで,寄付講座であることと国立大学が独立法人化した結果,可能になったシステムだと思います。 SAS の診療が大学病院の経営にとってもメリットがあるということが,病院側も理解し始めましたので,今後は他の大学病院にも広がっていくと思います。

飛田 ぜひ,良い例になっていただきたいと思います。

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