>   >   >  わが国の臨床試験とそれを評価するための枠組みー2
■JPT-online■
薬理と治療(JPT)vol.30 no.8
わが国の臨床試験とそれを評価するための枠組み-2
◆ 第3章 本邦の臨床試験の質に関する分析と考察 ◇ 第1節 目的
  ◇ 第2節 本邦の臨床試験におけるGCP違反・逸脱
  ◇ 第3節 GCP査察結果の日米比較
  ◇ 第4節 発見された違反・逸脱の重大さ
  ◇ 第5節 新GCPの実施と本邦における臨床試験の質の変化
  ◇ 第6節 新GCP下で実施された試験のGCP調査結果
文   献
わが国の臨床試験とそれを評価するための枠組み-1
わが国の臨床試験とそれを評価するための枠組み-3
icon第3章 本邦の臨床試験の質に関する分析と考察

 第2章では,臨床試験を実施する医療機関に焦点を当て,医療機関の特徴と臨床試験の属性との関連付けを試みた。 本章では,臨床試験そのものに焦点を当て,その質に関する議論を展開する24)24)Ono S, Kodama Y, Nagao T, Toyoshima S. The quality of conduct in Japanese clinical trials: deficiencies found in GCP inspections. Controlled Clinical Trial (in press).

第1節 目的

 臨床試験の特徴を記述的に示す方法はいくつかあるが,本章では,その特徴を「欠陥」の観点から探ることを試みる。 すなわち,国内試験がどの程度GCPを遵守して実施されていたか,違反・不遵守があるとすればその内容はどのようなものか, 違反・不遵守の原因は何に求められるかを詳細に分析する。

 また,その特徴がわが国固有のものか,あるいは海外でも共通に見られるものかも興味深い点である。 第3節においては,米国の規制当局である米国食品医薬品庁US-FDA(United States-Food and Drug Administration)のGCP査察の実状と結果を提示し, 本邦の調査結果との比較を試みる。

 第1章で述べたとおり,本邦において承認審査資料を作成するための臨床試験の実施は薬事法の規制下にある。 平成14年(2002年)現在,詳細な規定は厚生省令としての「医薬品の臨床試験の実施の基準」すなわち新GCPに定められているが, 平成9年(1997年)以前は薬務局長通知である旧GCPが試験の実施の手順を定めたガイドラインであった。

 GCPは,その基本的に性格からみて,「何かをしてはならない」という規則ではなく, 「適切な試験の実施はこのようにあるべき」を具体的に定めたガイドラインである。 GCPは巨大な手続きの体系であり,また,膨大なpaper workを関係者に求めることにより, 臨床試験の科学的・倫理的な質を一定水準以上のものとすることがその究極の目的である44)医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令. 平成9年3月27日厚生省令第28号.55)医薬品の臨床試験の実施に関する基準について. 平成元年10月2日薬発第874号.11)11)Ono S, Kodama Y. Clinical trials and new good clinical practice guideline in Japan.Pharmacoeconomics 2000;18:125-41.。 手続き的な逸脱やpaper workにおける違反は,単独で,あるいはいくつかが組み合わさって,データの科学的価値を疑わせる原因となり, また,直接・間接に被験者の権利や健康を侵害する行為とつながっている。

 GCP査察を実施してGCP違反・逸脱を見出すことには,申請データの科学的信頼性の保証(将来の患者のため)と, そのような査察が(事後的にではあるが)行われることを医療機関・医師に認識してもらうことにより, 現に試験に参加している被験者に違反・逸脱が起こらないよう,あらかじめ注意を促すという二つの大きな意義がある。

 本邦のGCP調査は,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(以下「医薬品機構」とする。)により実施される 2424)Ono S, Kodama Y, Nagao T, Toyoshima S. The quality of conduct in Japanese clinical trials: deficiencies found in GCP inspections. Controlled Clinical Trial (in press).25)25)児玉庸夫. GCP適合性実地調査の現状. 大阪医薬品協会会報 平成12年9月; 620: 25-45.。 調査対象試験は,厚生労働省に承認申請された医薬品の申請資料に含まれる臨床試験である。調査対象施設は, 通常,2〜4施設で,症例数,プロトコルの申請資料における重要性,過去にその施設の調査を行ったか等の観点から選択される。 発見された逸脱・違反をまとめた調査報告書は厚生労働省に送られ,そこで逸脱・違反の程度が吟味される。 その結果,重大な違反があると判断されると,その違反を含む試験自体を「GCP不適合試験」と認定して,申請資料として認めない場合や, 一部の医療機関のデータを試験データから削除させる等の措置がとられる場合がある。

 なお,調査の結果発見された重要な逸脱・違反は,最終的な申請資料上の取り扱いにかかわらず, 申請者(製薬企業)と調査対象となった医療機関には文書で伝えられ,後の業務手順書の改善等に役立てられることとなっている。

 本邦のGCP調査実施の基本スキームは,組織的な違いはあるものの, 米国FDAのそれを参考にして構築されている2626)Horowitz AM. Fraud and scientific misconduct in the United States. In: Lock S, Wells F, eds. Fraud and misconduct in medical research 2nd ed. London: BMJ Publishing Group; 1996.27)27)Huddleston RD. FDA clinical investigator site inspections: the sponsor's role. Drug Information Journal 1999; 33: 965-8.

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