1.ヒト化抗CD20モノクロナール抗体/2.STI571/3.サリドマイド/4.骨髄非破壊的移植
造血器由来の腫瘍には白血病や悪性リンパ腫,多発性骨髄腫などがあるが,これらの疾患すべてをレビューするのは困難であり,最近注目されている四つの話題に絞って述べることにする。 数年前から米国を中心に,マウス/ヒトキメラ型の抗CD20モノクローナル抗体(rituximab)が臨床の場で使われ始めており,低悪性度非ホジキンリンパ腫のみならず,最近ではび漫性大細胞型B細胞リンパ腫にも有効であることが明らかになってきた。米国では1998年にFDAが承認済みで,わが国でも本誌が発刊される頃には市販されるものと思われる。 濾胞性リンパ腫などの低悪性度非ホジキンリンパ腫の治療成績は,Maloneyら1),McLaughlinら2)の報告では,再発例での有効率が約半分で,有効期間は1年であった。375 mg/m2を週に1回,計4回の投与では1),治療終了後1ヵ月ぐらいから反応がみられ4ヵ月後にもっとも効果が著しかった。副作用は軽く,重篤なものは認めなかった。一方,初発例3, 4)ではおよそ2/3の症例に有効で,完全寛解例も15〜20%程度ある。1回目が有効だった患者への再投与で約40%の症例が再度有効である5)。再投与で副作用が増えることはない。キメラ抗体に対し抗体が作られることもない。ただし,末梢血中に5万/μL以上のCD20陽性細胞が流れているときは,発熱,悪寒,悪心,嘔吐,低血圧,呼吸困難などを起こすので危険である6)。データは少ないが,たとえ1回目の治療が無効であっても2回目の治療に反応する症例が少数存在する。PCR法でもbcl-2-JH再構成遺伝子が高率に陰性化する。本剤単独で従来の抗癌剤に比べて有意に生存期間の延長をもたらすか否かはまだ結論が出ていない。 次に他剤との併用についての成績だが,初発例の低悪性度群に対してCHOPとrituximabを併用したところ,有効率95%,完全寛解率は55%と驚くべき成績であった7)。 マントル細胞リンパ腫のように治療が難しい疾患に対しては,大量化学療法のあとにrituximabを用いると,PCR法でも腫瘍細胞がほぼ消失するために,この後さらにCD34陽性細胞を収穫して自家移植を行うと,評価可能な14例全例で分子レベルでも完全寛解を維持していることが報告された。なおこの治療法は濾胞性リンパ腫でも成功している8)。 び漫性大細胞型B細胞リンパ腫に対するrituximab療法は60歳以上の高齢者での無作為化試験では,rituximabとCHOP療法の併用群の方がCHOP単独群よりも有意に優れているとの報告があり,将来rituximab併用化学療法がaggressive B細胞リンパ腫に対して標準的な治療法として位置づけられる可能性が高くなってきた9)。 マウス型抗CD20抗体にアイソトープを結合させ治療に用いるという試みも始まっており,これも良い成績をあげている。再発または治療抵抗性のB細胞性非ホジキンリンパ腫では71%に有効で,34%は完全寛解を得ている。低悪性度群のほうが中等度悪性群よりも有効である。効果は約1年続く10)。一方,再発B細胞リンパ腫に対し自家移植時にアイソトープ標識抗体と大量化学療法を併用する方法では,2年後の生存率が83%,無増悪生存期間が68%と,従来の抗体抜きの治療法の成績に比べて格段に優れている11)。わが国でも近々治験が始まる予定である。 慢性骨髄性白血病(CML)の原因遺伝子であるbcr-ablによりコードされるチロシンキナーゼを阻害するSTI571は,bcr-abl陽性白血病細胞に対し選択的に増殖抑制効果を示す。わが国でも現在治験が進行中だが,本剤を用いた米国からの第I相臨床試験12)では,インターフェロン(IFN)抵抗性の慢性期CML患者54例で,140 mg以上の量の連日経口投与で全例血液学的改善を認め,300 mg以上の投与で大部分の患者に血液学的完全寛解を認め,33%に細胞遺伝学的効果を2ヵ月以内に認めた。その後のIFN抵抗性の慢性期CML患者での欧米からの第II相試験では13),6ヵ月後の細胞遺伝学的効果(Ph<35%)が56%と優れた成績であった。欧米では,未治療例でIFNプラスara-C併用群との比較試験が実施されようとしている。 STI571を他剤と併用で用いることが可能か否かについてだが,in vitroの実験では,IFNやダウノルビシン,ara-Cとは相加的または相乗的効果を示すが,ハイドレアとの併用については実験法によって異なる結果が得られた14)。以上の実験結果から,STI571をこれらの薬剤と併用で用いる治験も検討中とのことである。 移行期CMLに対するSTI571の効果だが,第II相試験結果15)からは,4週後の血液学的効果が78%で,14%は血液学的完全寛解を示した。したがって本剤が移行期のCMLにも使用可能であるものと思われる。ただしグレード3ないし4の好中球減少が40%に,血小板減少が18%にみられた。これらの副作用は慢性期での治療時の副作用と比較して頻度が高くかつ重篤なので,注意を要する。 CML急性転化,Ph陽性ALL患者の一部でも血液学的効果が得られているが,治療効果の持続期間は短く,本剤の有効性は低いものと思われる。 |