3.サリドマイド
治療抵抗性の多発性骨髄腫に対するサリドマイド療法により,25%以上のM蛋白の減少を84例中27例(32%)に認めた16)。副作用も軽く,薬を中断したのは10%のみであった。他の少数例の治験でも,ほぼ同様な成績が得られている。 サリドマイドの作用機序としては,まだはっきりしないが,骨髄腫細胞の増殖を直接抑制する,骨髄ストローマ細胞との接着を抑える,増殖を促進するサイトカインの産生を抑制する,VEGF(vascular endothelial growth factor)やbFGF-2(basic fibroblast growth factor 2)などの活性を抑える,などが考えられている17)。 VEGFやbFGFは骨髄腫細胞や周囲のストローマ細胞から分泌され,血管新生のみならず骨髄腫細胞の増殖や生存にも関与している可能性が指摘されている。しかも骨髄腫では,骨髄中の血管密度が高いほど骨髄腫細胞の増殖が早く,予後が不良といわれている。もしサリドマイドの主な作用がVEGFやbFGFを介する血管新生の抑制にあるとすれば,染色体13qの欠失を伴う骨髄腫では血管新生が増加しているとのことから18),このような亜型にサリドマイドが特に有効である可能性が考えられる。 現在,骨髄腫のみならず他の多くの造血器腫瘍で骨髄中の血管新生と病勢との関係が明らかにされつつあり19),しかも種々の血管新生抑制剤が開発されてきていることから,これらの新薬が骨髄腫をはじめとする造血器腫瘍の治療に使われる日も近いものと思われる。 4.骨髄非破壊的移植 骨髄非破壊的移植(いわゆるミニ移植)もまた,ここ数年注目されている治療法の一つである。前処置での免疫抑制効果を温存しながら骨髄抑制効果を少なくした治療法で,したがって前処置により起こる致死的毒性を軽減できるために,高齢者や臓器障害を有して通常なら移植がむずかしい症例でも移植が可能になるという利点がある。移植されたドナーリンパ球が患者腫瘍細胞を異物と認識し,移植片対腫瘍効果(graft-versus-tumor effect)によって腫瘍を排除するものと考えられている20, 21)。 移植前処置は従来のような強い治療ではなく,fludarabineプラスcyclophosphamideや,fludarabineプラスbusulfanプラスATG(anti-thymocyte globulin)等,いくつかのレジメンが行われており,組み合せによって,免疫抑制作用が強いが骨髄抑制作用が弱いものから,免疫抑制作用も骨髄抑制作用も強いものまでさまざまである21)。骨髄抑制作用が弱いレジメンとしては,たとえばfludarabineプラスcyclophosphamide,中等度骨髄抑制作用を認めるレジメンとしてはfludarabineプラスbusu1fan,高度の骨髄抑制をきたすレジメンとしてはTBIプラスcyclophosphamideなどがある。免疫抑制作用が強いレジメンではドナー細胞の生着には通常DLI(donor lymphocyte infusion)は不要だが,免疫抑制作用が弱いレジメンではDLIが必要となる。骨髄抑制作用が強くなればなるほど,従来の移植療法に近づく。 G-CSFで動員した末梢血幹細胞をCD34+細胞として約5×106/kg以上移植する。生着を確実にするためと移植関連合併症や再発を減らすために,自家移植に比べて,より多くの幹細胞を移植する必要がある。 移植後の汎血球減少の期間は短く,大部分の症例で速やかにドナー由来,患者由来の両方の造血能の回復をみる。ドナー由来のリンパ球や骨髄系細胞の回復はレジメンによって異なるが,Childsら20, 21)によるcyclophosphamideプラスfludarabineのプロトコールでは,移植後14日目では末梢血中のCD3+T細胞の50〜100%はドナー由来だが,CD13+骨髄系細胞の30%以下がドナー由来とのことで,骨髄系細胞の回復は遅れる。 Childsらのプロトコールでは(図1),cyclosporine (CSA)をday−4から開始し,day 30のT細胞が100%ドナー由来ならそのままCSAをday 60まで継続して,その後10日に25%の割合で減らしてday 100までに終了する。一方day 30でmixed chimerismなら2週間でCSAを終了する。その後毎週chimerismを測定して,100%ドナー由来T細胞にならなければ,4週ごとにDLIをくり返す20)。 現在,主に高齢者や臓器障害のある患者で骨髄非破壊的移植が行われており,その成績も発表されつつあるが,シアトルからの報告をみると,非常に優れた有望な成績である(Dr.Georges,私信)。さらに多発性骨髄腫や治療抵抗性の悪性リンパ腫などの完全寛解がむずかしい疾患でも,自家移植のあとに骨髄非破壊的同種移植を組み合わせることで,完全寛解症例が多くなってきている22)。 従来の移植に比べると確かに造血能の回復は早く移植時の合併症も低いために,今後は従来の移植に取って代わることが可能なのか,あるいは他の固型腫瘍や自己免疫疾患などでも実施可能なのかなど,興味深い課題が多い。
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