■治療学・座談会■
Brain Attack& Failure−制圧戦略の現状と近未来−
出席者(発言順)
(司会)松本昌泰 氏 広島大学大学院病態探究医科学講座脳神経内科学
井林雪郎 氏 九州大学大学院医学研究院病態機能内科学
畑澤 順 氏 大阪大学大学院医学系研究科生体情報医学講座トレーサー情報解析 中山博文 氏 日本脳卒中協会/中山クリニック

画像診断の役割

■急速に発展しつつある画像診断技術

松本 脳血管障害の予知・予防を進めるうえで画像診断は欠かせません。 特に日本は脳ドックが 700 施設以上も稼動しており,サブクリニカルレベルでの脳血管障害が高頻度にみつかってきている世界でも唯一の国ではないかと思っています。

畑澤 脳卒中の画像診断について考えてみますと,検査自体どんどん非侵襲的になってきています。かつては血管撮影が主でしたが, X 線 CT が登場し,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血が簡便に鑑別できるようになり,診断,治療成績が一挙に向上しました。 しかし,脳卒中の予知・予防のための画像診断となると MRI を待たなければなりませんでした。 MRI は放射線の被曝もなく,血管の情報と脳組織の情報を無侵襲に得ることができます。 ここ 10 年間で非常に普及しました。これによって脳ドックがどんどん広がり,症状が出る前の血管や脳の画像をみるチャンスが増え,脳卒中発症前の状態がわかってきました。

 予知・予防における画像診断の位置づけですが,疫学研究では,高血圧や糖尿病など脳卒中の危険因子が明らかになりましたが, 個人がどの程度脳卒中になりやすいかまではわかりません。画像診断では個人のレベルでの危険度を推定します。 たとえば,同じ高血圧でも病変が少ない人もいますし,無症候であっても小さな病変がたくさんある人もいるわけです。 未破裂動脈瘤や血管狭窄がわかります。撮像法によっては,非常に小さな血液の成分が脳内に沈着している例もみられます。 これは微小な脳出血か,出血性梗塞のようなパターンかもしれません。 原因はまだ十分にはわかっていないのですが,患者はそれを見せられますと,無症候であっても説得力のあるデータになります。 高血圧を予防しなければいけない,タバコもやめなければいけないと思っていても実行できない人がほとんどですから。

 病気が起こってからの画像診断も大事ですが,なによりも予防が重要ですから,なるべく多くの人が受けられる体制をつくることが必要だと思います。

■画像診断をいかに活用していくか

畑澤 ただ,MRI の場合非常によく見えますが,それが何を意味するか,まだ十分解明されていないところがあります。 かつて無症候性脳血管障害に関する厚生労働省の班会議ができ,ガイドラインもつくられました。 その当時に比べてもさらにいろいろな病変が見えるようになって解釈が難しくなってきています。 ですから,病変の意味を正しく理解するための研究が必要だと思います。

 さらにいえば,最終的にその病変の意味がわかったとしても,それを予防するために何ができるのか, 薬物治療なり「脳卒中予防十か条」といった方策がなければ,病気だけみつけても患者には何のメリットもありません。 画像診断で症状がでる前の病変が数多く発見されるでしょうが,それを発症予防に結びつけるために,やらなければならないことがまだまだたくさん残っています。

 日本人での大規模臨床試験の役割は今後非常に大きくなってきますが,そのベースとなるのもまた客観的な画像診断であると思います。 画像によって群分けをしたり,フォローアップの評価をしたり,そういうところにも画像診断を使うべきではないかと思っています。

松本 予防における画像診断の果たす役割は,X 線撮影ができるようになって結核病巣が見えるようになり,予防が進んだことと相通ずるところがあるかと思います。 そのとき,混乱を避ける意味でも診断上の言葉を統一し,かつ計測法を標準化していくことが検討された意義は大きかったと思います。 それもあって,リスクの層別化を画像でみていくことがかなり安定した方法論になったと思います。

 脳ドックを受けると 8,9 割の方に何らかの病変がみつかるといわれているぐらいですので, みつかった病変のリスクレベルに応じた対処法があってこその画像診断であるということでしょう。

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