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インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント
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IV IV. ブループリスクリプション(転換期におけるプログラム)
 (Blue Prescriptions: A Program in Transition
Mari Trommald,Einar Skancke,Arild Bjornda,Audun Haga,Andrew D. Oxman
渡邉 裕司   浜松医科大学 臨床薬理学
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
薬剤償還プログラムの概要 (Overview of the Drug Reimbursement Program)
プログラム変更の実施:5つの事例
 (Implementation of Changes in the Program: Five examples)
プログラム変更の評価 (Evaluation of Changes in the Program)
反省と一般化(Reflection and Generalization)
文 献
用語集(Glossary)

プログラム変更の評価 (Evaluation of Changes in the Program)
 National Insurance Administrationは大規模な管理組織である。評価への関心は部門により異なり,また雇用された時期で個人の関心も左右される。前述したブループリスクリプションの変化は最近のものであり,現在もなお開発途中にある。新薬を償還対象リストに加えるための申請書に経済評価を添付することは,2002年までは義務化されないだろう。参照価格システムのレビューを除き,方針決定などのプロセスにおける経済評価の利用や,プロセスの変更に際して外部の正式な評価はこれまでには行われていないし2),現時点では予定もされていない。
■□■  リサーチと評価の資金(Funds for Research and Evaluation)  ■□■
 Medicines Control Authority の医薬経済学ユニットには,事例ごとに雇う外部のコンサルタントに対する資金に制限がある(8万 NOKまたは2000年の時点で9000ドル)。コンサルタントは非常に重要とされるケースに関して契約をかわす。国際的な専門家を雇う問題点の一つは,文書や報告書のほとんどがノルウェー語で記載されている点である。その一方で,適切な技術と専門知識をもつコンサルタントをノルウェー国内で見つけることは困難である。必要な場合により広範に国際的な専門家を要請できるよう,英語で文書や報告書を作成することが検討されている。

 保健省は,ブループリスクリプションプログラムに関連する研究や評価のための特定の資金を定めていないが,使用可能な一般的な財源は保有している。たとえば,2000年には200万NOK(22万ドル)がコレステロール低下薬や降圧薬の処方改善に効果的な対策の開発のために割り当てられた。National Institute of Public Healthは,ブループリスクリプションプログラムに関する研究や評価を行う特定の役職は設けていないが,必要な時期にはスタッフを調整することが可能である。
■□■  プログラムの現状(Current Status of the Program)  ■□■
 保健省の中では,新薬を償還リストに追加するための方針決定に関して,優先項目の決定と経済評価の必要性が十分理解されており,この方向へ変革するために強固な支持が得られている。現在,決定の根拠となる明確なクライテリアの作成に焦点が当てられている。Medicines Control Authorityは経済評価のためのガイドラインを作成したが,これらは利用するエビデンスの内容やそれらをどのように統合するか,などのルールは含んでいない。このような手続き上の方針は,既存の法律や規制などにも特に定められていない。また意見や判定の不一致にどのように対処するかについてもガイドラインはなく,利害関係者,専門家,研究者などへの諮問のプロセスも定められていない。コレステロール低下薬や降圧薬などすでに償還が認められている薬剤の処方改善,またmontelukastなどリストに追加される新薬の適正使用の確立への努力は近年始まったばかりであり,少数のプロジェクトに限られている。

 医薬品業界は申請手続きに関して非常に批判的であり,申請過程での透明性と意思疎通の欠如に対して抗議を行ってきた。最も批判が寄せられた内容は,償還の薬剤,特に画期的な新薬の申請に対する評価に長時間を要していることである。Norwegian Association of Pharmaceutical Manufacturesはこの件に関し,1998年にEuropean Free Trade Association Surveillance Authority (ESA)に抗議した。2000年10月の報告書では,過去2年間にわずか45%の申請が,EUが定める90日の基準を満たしているにすぎないと結論づけた。
反省と一般化(Reflection and Generalization)
■□■  障 壁(Barriers)  ■□■
 新薬をノルウェーのブループリスクリプションプログラムに掲載する方針決定の際に,エビデンスのよりよい活用を妨げる重要な因子として次のものがある。
  • 臨床疫学,ヘルス経済,臨床薬理の分野で適切な訓練を受けた人材の不足
  • 政治的レベルでのロビー活動や干渉,特に営利目的の企業によりなされるもの
  • 法律や規制の不備
  • 方針決定の明確なクライテリアがないこと
■□■  促進要因(Facilitators)  ■□■
 上記の要因に加えて,(たとえば人材の雇用,育成など)方針決定においてエビデンスの活用を向上させる要因として次のものがある。
  • ポリシーメーカーと政治家の間のよりよいコミュニケーション
  • 処方行動をモニターするための処方データ収集システムの設立
  • 治療目標(臨床的に重要なエンドポイント)を審査過程の早期に設定し,その後の分析とディスカッションの的をこの治療目標に絞ること
  • 透明性が確保され,明確な審査過程
  • 独立した第三者的機関の参加と,利害関係者による政治的なロビー活動を通じた審査への干渉行為の排除
■□■  学び得たもの(Lessons Learned)  ■□■
 ノルウェーでの新薬の認可は現在,主にヨーロッパでの評価にもとづいている。一方,償還に関する評価と決定は国家レベルで行われる。ノルウェーのブループリスクリプションプログラムの変更は主にヨーロッパや他の国々での変化を反映しており,コストの上昇,優先項目決定の必要性,保険保障の決定伝達における経済評価の役割の向上などにより進められる。他の国でも見られるように,経済分析におけるエビデンスの活用は,利用可能なデータの不足と,臨床疫学,ヘルス経済,臨床薬理の知識をもつ人材の不足により限局されている。

 この結果,薬剤償還の申請に対する評価の質はさまざまなものとなった。評価の正当性は医師,患者組織,政治家らの間でさまざまに解釈された。この報告書で紹介されたケースでは,すべての専門家や医師が,接触がはじまっているにもかかわらず,問題となっている薬剤に関して支持的であった。わずか1人の専門家が利害の相反を宣言したにすぎない。

 薬剤の償還の決定を導く過程での,さまざまな利害関係者の役割は明確に決められていなかった。この結果,償還の申請に対する審査全体への不信を生み,最終的な決断に意見が取り入れられるようメディアを利用したり議会のメンバーに要請したりするなどの他の回路を利用することにつながった。

 この他の重要な課題は,いったん決定された内容の実行に関してである。この報告書で取り上げた事例における専門家からの批判は,助言や決定に対する正当性への疑問であった。これは,医師の処方行動の監視システムがほとんど存在せず,かつ薬剤処方に関するガイドラインを作成し実行する責任の所在が明確でない状況で,必要不可欠である効果的な運用を阻害するものである。

 エビデンス,批判的吟味および経済評価は現在,保健省,Medicine Control Authority, National Insurance Administrationのポリシーメーカーやアドバイザーにその価値が認められるようになった。しかし,政治家はこれらに重きをおかず,この報告書で紹介されたケースのように,単なる伝聞や,専門家の意見,マスメディアの報道,そしてロビー活動によって影響されることが大きいとみられる。この報告のケースのいくつかには,新薬を償還リストに掲載する際,政治家が決定的な役割を担っている。

 ノルウェーの薬剤償還プログラムは,「適切な薬剤を適切な患者へ」を目標に,費用対効果のある処方を行う可能性を提案している。しかし,実行とそれをコントロールする戦略に欠けるため,この目標は達成されていない。処方に関する国内データ収集のシステムは現在作成中であるが,これにより個々の処方の情報が得られることになっている。この報告書で示された2事例,コレステロール低下薬と降圧薬に関する事例とmontelukastの事例は,費用対効果の高い処方を促進するために利用しうるアプローチの例である。

 過去5年間,官僚の変化は遅々としたものであり,保健省,Medicines Control Authority, National Insurance Administrationに所属する何人かの働きかけに依存している現状である。薬剤の償還に関する方針決定の審査過程は,組織と調整の不足により,過去批判されつづけてきたが,近年の改善によって,よりシステム化された明確なアプローチをもたらすことが期待される。この報告書の事例が,そのいくつかの試みを示している。薬剤償還の申請を審査し,さらにブループリスクリプションの適切な利用を確実にするための,より透明性が高く明確なプロセスを構築する必要性がある。さらに,一般社会や政治家に,この領域で何を優先事項とすべきかをよりよく理解してもらうことが,決定内容を正当と評価し,受け入れてもらうために役立つものと思われる。
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