V.今後の動向とわが国の現状

 これまでの試験では,post-hocな分析から,糖尿病におけるLDL-Cに対する介入効果や,男性,女性,高齢者,高血圧患者についての脂質介入効果が推定されているが,前向きの試験が必要である。現在,このような問題を解決すべくいくつかの試験が進行中である。基本的には,2005年までにはこれらの試験結果が発表されることになるものと期待される。特に,LDL-Cをどこまで低下させるべきなのか,現実的な問題があり,その問題の解決に向けて試験が組まれている。

 わが国では,さらに独自の検討が必要であるが,現在進行中のものについて,以下簡単に触れる。

1. Japan Lipid Intervention Trial (JLIT)

 JLITは高コレステロール血症患者にシンバスタチンを5〜10mg/日投与して,6年間観察した。1993年にコレステロール220mg/dL以上のもの52421例が登録され,1999年に試験は終了した。現在最終の解析中である。6年間の治療後の血清脂質は極めて安定した低下を示し,治療効果のあった観察ということができる。そして,この間の虚血性心疾患の発症率は表2に示すとおりである。本研究の最大の問題点はコントロールがないという点である。したがって,無治療群の発症頻度と比較して解析することができないのである。しかし,対象母数が大きいということは,さまざまな解析ができる可能性を示している。J-LITは治療効果を判定するというより,日本人の統計を前向きに見たという点,治療目標値の置き方などに一定の知見を与えるという意味で極めて意義深いものといえよう。

表2 6年間に観察された虚血性心疾患の内訳(J-LIT)

一次予防例

二次予防例

例数

発症例

例数

発症例

心筋梗塞(致死性)

60

(0.25)

48

(1.87)

心筋梗塞(非致死性)

163

(0.68)

74

(2.88)

突然心臓死

11

(0.05)

5

(0.19)

狭心症(確診)

171

(0.71)

102

(3.97)

狭心症(疑診)

101

(0.42)

17

(0.66)

合 計

506

(2.10)

246

(9.58)

発症例=/千人年

2. Pravastatin Anti-atherosclerosis Trial in the Elderly(PATE) Study

 PATE studyは60歳以上のコレステロール220〜280mg/dLの665例を対象に,pravastatin 5mg/日群(C群334例)と10〜20mg/日群(U群331例)を設定したRCTである。治療期間は平均3.9年で,評価項目は脳血管疾患,虚血性心疾患,末梢血管疾患,突然死を含む心血管疾患の発症率である。コレステロールは治療により,C群で11〜13%,U群で15〜17%であったが,心血管イベントは有意にU群で低かった。この試験はわが国におけるはじめての前向きのRCTとして高く評価できる。また,高齢者を対象としており,コレステロールの治療前値は約250mg/dLと決して高くないところで治療効果が出たという点では諸外国の試験になく,評価すべきであると考えられる。

3. Mega Study

 Mega studyはコレステロール220〜270mg/dLの40〜70歳の患者を対象として8214例が登録された。食事療法のみの群と食事療法+pravastatin(10〜20 mg/day)群にランダマイズし,治療期間は5年間である。登録者の内容をみると糖尿病が19.7%,高血圧が41.6%と多く,女性が68%と海外での試験と比較すると女性が多いことが特徴となっている。わが国における本格的な大規模なRCTであり,2004〜5年に結果が発表されるものと期待される。

4. Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS)

 JELISはEPAの動脈硬化予防効果をみる大規模予防試験である。対象はコレステロール250mg/dL以上の患者で,スタチンによる治療に加えてプラセボ(p)群とEPA-E(1800〜2700mg/day)(E)群にランダマイズし,p群は9311例,E群は9318例が登録された。やはり女性が多く両群約68%であった。治療前コレステロールは約280mg/dLとやや高いが,1年間の治療により約220mg/dLと初期の目標を達している。本研究の特徴は,高脂血症治療に加えて,抗血小板療法が動脈硬化予防にどれくらい有効かを検討する世界にもみられないユニークなRCTであり,結果が注目される。

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