[1.気管支喘息][2.花粉症] [3.治療薬の将来展望]


2.花粉症

 花粉症はさまざまな花粉がアレルゲンとなる季節性アレルギー性鼻・結膜炎であるが,現在わが国で報告されている原因花粉は約60種類にも及ぶ。中でもスギ花粉症は首都圏で20%を超すとされるように,その有症率の高さや症状の強さから最も重要な花粉症であり,1979年の花粉大量飛散以降,社会的な問題となっている。スギ花粉症の治療にあたっては,抗アレルギー薬を基礎治療薬とし,必要に応じて点鼻ステロイド薬を併用するのが原則と考えられる。気管支喘息と同じように,鼻アレルギー診療ガイドライン15)が公表されており,また厚生労働省研究班によるEBMにもとづく治療ガイドラインも現在作成中である。

 

表4 花粉症でのアレルギー治療薬の初期治療効果(報告年次順)(文献17より引用)
薬剤名
(主な商品名)
報告者(報告年) スギ花粉飛散総数
(個/cm2/年)
全般改善度(%)
初期治療群 飛散後治療群
 
トラニラスト(リザベン) 木村ら(1986) 3508
65.0 35.0
 
クロモグリク酸ナトリウム点鼻(インタール) 木村ら(1986) 5999
44.0 記載なし
 
フマル酸ケトチフェン(ザジテン) 奥田ら(1986) 523〜2350*1
85.5 73.2
  オキサトミド(セルテクト) 井上ら(1991) 2748
60.0 49.9
新川ら
(1991〜1993)
875〜4888*1
60.0〜80.0 50.0〜70.0
 
  塩酸アゼラスチン(アゼプチン) 古屋ら(1991) 2528〜6885*1
78.7 記載なし
  テルフェナジン(トリルダン) 水田ら(1991) 3570
42.8 記載なし
 
  ペミロラストカリウム(アレギサール) 鵜飼ら(1995) 17943
64.3 31.8
 
今野ら(1995) 4599
79.0 67.0
 
  塩酸エピナスチン(アレジオン) 遠藤ら(1995) 7454
70.0 30.4
 
トシル酸スプラタスト(アイピーディ) 増田ら(1996) 1449
80.6 18.8
  エバスチン(エバステル) 荻野ら(1997) 1037
83.3 50.0
  報告年と観察地によりスギ花粉の飛散数に差があるため,単純に各薬剤の有用性を比較検討することはできない
*1 複数施設での検討
 

 

1. 抗アレルギー薬

 ガイドラインによる抗アレルギー薬の分類は,気管支喘息のそれとは異なっており,(1)メディエーター遊離抑制薬,(2)メディエーター受容体拮抗薬,(3)メディエーター合成阻害薬,(4)Th2サイトカイン阻害薬,として整理されており,代表的な位置付けにあるヒスタミンH1拮抗薬は(2)の中に含まれる。これらは,気管支喘息の場合と同様にinactive placeboやactive controlを対照とした臨床治験の結果をもとに認可された。

 わが国の花粉症での抗アレルギー薬の特徴的な使い方が,いわゆる「初期療法」である。すなわち症状発現時期の個人差を考慮した治療法であり,具体的には“スギ花粉飛散初期の症状がないか,あってもごく軽度の時期に開始する治療”16)である。文献としては少し古いが,抗アレルギー薬初期療法の有効性のまとめを表4 17)に示す。これは初期療法を行うことで飛散初期の花粉の反復曝露に伴う反応性の亢進を抑制し,その結果最初のピーク時の抗原曝露量の増加に対する急激な症状増悪を抑制することにもとづくのであろう。欧米では初期療法に関する検討は少なく,このような季節前投与が定着しているとは言い難い。

 なお最近,花粉が主要原因物質となる季節性アレルギー性鼻炎・気管支喘息合併例での,LT拮抗薬・ヒスタミンH1拮抗薬の併用効果が報告された18)。それによると,montelukast・cetirizine併用は点鼻・吸入BUD併用と同等にかつplaceboに比して有意に,鼻炎症状を抑制するとともに,ピークフロー値を改善させ喘息症状を軽減させたという。

 

2. 点鼻ステロイド薬

 点鼻ステロイド薬(NS)として,わが国ではBDP,FPおよびフルニソリド製剤が用いられている。NSの有効性については多くの臨床evidenceがあり,それにもとづいたヨーロッパのconsensus statement 19)では,NSは中等度の症状に対しては単独投与,重症に対してはNSと経口または点鼻ヒスタミンH1拮抗薬併用,という治療方針が記載されている。

 NSとヒスタミンH1拮抗薬の優劣は興味あるところであるが,それについては16のrandomized controlled trial,総計2267症例でのmeta analysisが報告されている20)。それによると前者としてBUD,BDP,FPなど,後者としてterfenadine,loratadine,cetirizineなどを比較した成績のまとめとして,安全性やcost effectivenessも勘案するとNSがヒスタミンH1拮抗薬の効果を上回って,アレルギー性鼻炎の第1選択として推奨されるという。


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