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インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント
0 I I' II III IV V VI
II II. ポリシーサイクルへの研究の応用:
   ブリティッシュコロンビア州におけるエビデンスにもとづく医薬品ポリシーの実行と評価
 (Applying Research to the Policy Cycle:Implementing and Evaluating Evidence-Based Drug Policies in British Columbia)

Malcolm Maclure,Robert S. Nakagawa,Bruce C. Carleton
大橋 京一   浜松医科大学臨床薬理学
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
RDPの論拠 (The Rationale for RDP)
実施 (Implementation)
評 価 (Evaluation)
個人的な考え(Personal Reflections)
文 献
用語集(Glossary)

評 価 (Evaluation)
 RDPは,その評価への高まる関心のなかで発表されたが,保健省内で運営上の資力は減少していた。Pharmacareの優先項目はコストに関する内容を含んだ複雑なポリシーを限られたスタッフで作り上げることであった。また,わずかな人手しか評価に携わることができなかった。この項では,Pharmacareが,ポリシーが与えた影響について評価する研究者との継続的なつながりを維持できた要因について省みたい。
■□■  RDPの影響における初期調査と研究の利用  ■□■
 高齢者医薬品フォーカスプロジェクト(Seniors Drug Focus Project: SDFP)は多面なリサーチプログラムの原点であった。その2つの目的は,高齢者のための医薬品代替ポリシーの評価と,高齢者とSDFPのポリシーへの影響の調査であった。当初,SDFPは,患者との直接の接触がプライバシーの問題であると否認されたため,1997年に解決策が見つかるまで最初の目的達成は妨げられた62)。1995年5月から1996年6月までSDFPは関連グループを指揮し,無作為に選ばれた高齢者1699人に電話をした。SDFPは,高齢者が感じるコストへの関心は医師が感じるより高いこと,また一般的にRDPを支持しているという結果を得た。

 2番目の目的に関して,SDFPが,高齢者から得た回答からSDFPが早急に研究をしない限り,Pharmacareに反映されないということがわかった。方針決定者は,関連グループの研究,小規模の電話による調査,2週間から8週間に完成されたデータベースの研究により敏感であった。早急なポリシー実行のプロセスにかかわるオブザーバーとして,われわれはRDP Expert Advisory Committeeが方針のみに焦点をあてた研究の概要より,方針が決定されることに重点をおいていたことがわかった。ポリシーメーカーの関心を集めるために研究者らは,ポリシー実施にむけて助力することが必要だと感じた。たとえば,専門家から意見を聞き,患者グループとパンフレットについて検討したり,エビデンスの基盤をまとめたりすることである。

 このプロジェクトから学んだことは,研究をポリシーの決定に結びつけるには組織的な障害があるが,それらは研究者が方法とタイミングについて創造的であり,ポリシーメーカーの信頼を得ることができるならば克服できるということである。研究者は第一歩を踏み出さなくてはならない。
■□■  外部からの資金(External Funding)  ■□■
 これらに対する称賛はまず初めに,独立した調査団により始められたヘルスサービスの研究に資金援助した団体へ与えられるべきである。1994年にオタワのSenior Independence Research Programmeは,提案を要請するため代表者をカナダのいたる所へ派遣した。われわれの1人(M.M)で,保健省研究評価局統計解析調査課(Statistical Analysis and Surveys in the Research and Evaluation Branch of the Ministry of Health)のマネージャーはプレゼンテーションを聞き,後にSDFPとなった52万6千カナダドルの提案を提出した。SDFPは,Pharmacareの外部の議案発議権として始められたが,途中で保健省がResearch and Evaluation Branchを解散させ,1997年にMaclureをPharmacareに移管させたためPharmacare の一部となった。外部からの資金援助への期待は,ハーバード大学,マックマスター大学,ワシントン大学,ブリティシュコロンビア大学の研究者らが1996年から1997年に評価を提案する動機となった。RDP Evaluation Subcommitteeによる提案のレビューにもとづき,Pharmacareは,ハーバード大学,マックマスター大学,ワシントン大学の,RDPのポリシーを改めて見直して国家機関に競争力のある助成金計画案を提出しようと努める研究らを補助するために資金を提供した。その後,U.S. Agency for Health Care Research and Quality(AHCRQ), the Canadian Health Services Research Foundation (CHSRF), the Canadian Health Transition Fund (HTF), the Drug Information Associationを含む7つの機関から約150万カナダドルの外部助成金が提供された。ポリシーの試みの科学的な測面については,CHSRFとHTFにより資金援助された。2001年初期現在,これらの評価はまもなく出版される。

 評価の資金について学んだことは,研究助成金機関はポリシーの評価に対して支援を継続または増加するべきであり,Pharmacareのような機関は,研究者に初期投資資金の提供をするなどして支援を促進するべきであるという点である。
■□■  効果の評価(Impact Assessment)  ■□■
 もし外部からの資金援助がなかったらどのような評価がされていたのであろうか。これはPharmacareが質の高い評価は外部によってなされるべきであるとしたため,解答は困難である。しかし,われわれはPharmacareがどのような評価をすることができたかは理解している。Pharmacareに参加した4ヵ月後,われわれの1人(M.M)でStatistical Analysis and Evaluationのマネージャーは,保健省の他の部門で行われている3つのデータ分析をもとにRDPの評価を指導して欲しいとの要請を受けた。これは,2週間後の州政府年間予算の発表直前に完了されなければならなかった。ポリシー実施の前後の間,ポリシーによって薬を代えた人の月間医療サービスと入院の数は,図表化された。これらの数値は比較的一定しており,ポリシー実施後に急激な変動はみられなかった。評価は目的を達成し,情報は2年間にわたりPharmacareの指導者により多数の住民会議で活用された。しかし,薬を変えたグループは,プロセスのフォローアップの最初の時点ではなく,途中から前向きに観察されたため,科学的に欠陥があるとされた。これは実施前と実施後の比較における結果について継続的なバイアスを呼ぶことになった。つまり利益のアウトカムに依存した変動因子(例:入院)が先行し,続いて独立した変動因子(例:薬の変更)が生み出されるということになる。

 ここで習得された点は,管理組織が評価のために行う内容とヘルスサービスの研究者が行う内容の間に大きな文化的なの隔たりがあるということである。これらは互いに補足的であり,衝突が生まれるわけではない。内部の者も外部の者も,それぞれができることを継続することであるが,互いのために協力しあうことも必要である。
■□■  RDPの効果に対する評価の結果  
   (Results of Impact Evaluations of RDP)  ■□■
 ワシントン大学と マックマスター大学の研究者による評価は1996年と1997年に着手された。1997年にPharmacareは,ヘルスポリシーの評価において著名なハーバード大学のStephen Soumerai氏と連絡をとり,RDPの評価に参加するよう招聘した。膨大なデータと方法論に関する2つの難問のため,評価は2001年初期にはまだ途中であった。その問題とは,2つのコホートが同じ方法で明確にされなければならなかった。一つは実施前,もう一つは実施後の期間である。それでなければ,歴史的なコントロール比較は,困難である。これまで述べた持続的なバイアスにより,たとえばさまざまな薬の変更パターンは,同じ分類の中の2つの薬を同時に服用している患者によってより複雑化されている。薬の再服用や停止は,ポリシー実施後の数値からマイナスされなければならない。また,服用停止のタイミングは未知であり,推測されなければならない。さらに,入院により薬が転換されるという事実は,転換により入院に至る場合があるかどうかの分析において比較されなければならない。
■□■  Pharmacareの無評価に対する非難  
   (Critics Accuse Pharmacare of No Evaluation)  ■□■
 医薬品業界がRDPを阻止するために宣伝や裁判で争い,失敗に終わった後,少数のRDP批判者が業界の支持を得てBC Better Pharmacare Coalitionを結成した。それは,RDPは正しく評価されておらず,評価が完了するまで停止されるべきだと主張した。しかしRDP実施の初期段階の半年後に,すでに分科委員会が設置されており,患者と一般のヘルスシステムにおけるRDPの効果を評価する手続きが確立されていた。この委員会によって作成されていた文書は,RDP評価の提案のためのピアレビューの段階であった。この批判グループの連合に参加していた2つの組織が,Pharmacareが3大学の補助をしているという事実を受けて脱退した。このころ業界は,RDPを厳しく批判した記事を新聞に掲載した開業医によるFraser Institute (保守的シンクタンク)の評価の乗り出しを支持した。その評価活動は,当初募集した研究員らがそのプロジェクトに参加しないことを決めたため,開始が遅れることになった。
■□■  無作為化されたポリシーの試み(Randomized Policy Trial)  ■□■
 SDFPの第3の目標は,ポリシー評価のために無作為化比較試験の可能性を検討することであった。医師らは,ランダム化試験が評価の最善の策と考えていたが,ポリシーの試験は実現不可能とみていた。また,高齢者がポリシーの変更の遅延について,彼らの医師の了解がある限り望ましいと感じていることもわかった。この情報はRDP Expert Advisory Committeeが無作為化比較試験のグループを承認することに役立ったが,3年前にはPharmacareに助言を与えていた同じ委員会が,その案は不可能かつ倫理に反するとして却下していた。

 これらの試みから習得したことは,もし研究者が長期にわたり,ポリシーメーカーと協力的な関係を保ち,また彼らの関心に敏感になることが可能ならば,無作為化されたポリシーの試験は無作為化したコントロールグループとともにわずかの遅れで実現させることができるという点である。
個人的な考え(Personal Reflections)
■□■   研究者の所見(Researcher Observations)  ■□■
 研究のために資金援助をすることとPharmacareによる評価には大きな障害があることがわかったが,もしも外部の団体によって資金援助があり,ポリシーサイクルと歩調を合わせたものであるならば,大きな関心を集めることもわかった。政府内の研究者は資金集めまた同時進行を助けることが可能であり,独立した外部研究者は,内容が公明正大であることを評論家らに訴えるために必要であった。医薬品プログラムの共同研究を促進するための一つの方法は,無作為化の遅延コントロールである。なぜならば,これは研究者と資金援助団体に対して,ポリシーメーカーが効果の厳しい評価に取り組んでいることを証明できるからである。しかし,無作為化のポリシー試験を擁護することにおいて,外部の審査員が自ら関与し,方針決定の現実に敏感さを欠くことは避けられないことである。これは内部の研究者が規則に従い,方針決定者の懸念に対処するために提案の計画を立てることで解決が可能である。

 われわれの「パブリックポリシーラボラトリー」の中で,資金のピアレビューやデータ収集の前に,研究計画案を立てる従来の学問的なプロセスは,役に立たないということがわかった。Nebulizer to Inhaler Conversion Program の遅延と,ポリシー試験のための外部補助金に対するピアレビューの遅延がほぼ一致したことは,幸運であった。また,急激な変化に対応できるようにすることと,われわれの研究がスタッフに与える影響について考えなければならないことを学んだ。

 一方,ポリシーメーカーとの共同研究を発展させるための好機は,ポリシーメーカーのアイディアを構築し実行のために援助することであることがわかった。特定のポリシーのための努力は,新しいポリシーの評価方法を理解し,適応させる方向に生かされた。
■□■  ポリシーメーカーの所見(Policymaker Observation)  ■□■
 連邦政府によって援助されたカナダのヘルスケアシステムのレビューに,「公共の(または民間の)払い戻しのポリシー(reimbursement policy)から生まれる価格への影響は,業界の反応の論調と活気によって計られる」17)と述べられている。ポリシーの実施は,医薬品業界から激しい反対があったことから,ポリシーは医薬品業界の利益と州の支出に大きな影響が現れたとみられる。より客観的にみれば,ポリシーは薬品プログラムのために,年間約4400万カナダドルを節約したことになる。

 これらの反対にもかかわらず,RDPのポリシーの実施は成功であった。ポリシーに対する哲学的な基盤とエビデンスの原理に加え,成功を収めたことは,内閣,保健省大臣,大臣代理,Pharmacareの指導者,Clinical Support Unitの指導者,Pharmacareの薬剤師など,州政府のすべての角度からの熱心な取り組みによるものである。

 研究者との共同研究は,ポリシーサイクルを増強したが,プロセスの変動と変わり続ける状況に対応できる彼らの経験にも依存していた。研究者とポリシーメーカーの専門知識とシステムの中での役割を,双方が互いに尊重することが必要であった。ポリシーメーカーが,研究者の専門知識と学問における才能を認識する一方,研究者はポリシーメーカーの知識と権限を認識する必要がある。これらが達成されたとき,人々の健康と公共のポリシーの発展を生み出す最大のチャンスが生まれるのである。
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