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/IV.βブロッカー/V.Ca拮抗薬//VI.硝酸薬/VII.我が国の大規模臨床研究/おわりに |
わが国の虚血性心疾患の死亡率は欧米に比べ著しく低かったが,近年の食生活の欧米化や高齢化はわが国においても虚血性心疾患の有病率を次第に増加させてきている。 虚血性心疾患の治療と予防の目的は,発症(一次)と進展(二次)予防によって最終的には総死亡率を低下させることにある。 循環系薬剤の効果を評価するうえでも心事故の発生や死亡率の改善をendpointとすることが重要となり,大規模臨床試験の結果を理論的根拠として虚血性心疾患はevidence based medicine (EBM)に基づいた治療がなされている。 本稿ではそれらの大規模臨床研究の結果をHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)や抗血小板薬,アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)などの薬物療法を中心に概説し,わが国での大規模臨床試験についても簡単に述べる。 高脂血症の主な治療目的は心血管イベントの抑制である。現在までコレステロール低下療法(主にLDL低下)による一次および二次予防効果について検討され,予防効果が実証されてきた。 1990年代前半よりさかんにスタチンを用いた大規模介入試験が行われるようになった。その代表的な大規模試験である4S(Scandinavian Simvastatin Survival Study) 1)では高コレステロール血症(平均LDL-C 188mg/dL)患者の二次予防効果を,WOS (West of Scotland Coronary Prevention Study)2)では高コレステロール血症患者(平均LDL-C 192mg/dL)の一次予防効果を証明した。その後,平均的血清コレステロール値に対してもCARE(Cholesterol and Recurrent Events)3)やLIPID(the Long Term Intervention with Pravastatin in Ischaemic Disease)4)では二次予防効果があることを,AFCAPS/TexCAPS(Air Force/Texas Coronary Atherosclerosis Prevention Study)5)では一次予防効果があることが示された。しかしながら,MARS(Monitored Atherosclerosis Regression Study)6)やMAAS(the Multicentre Anti Atheroma Study)7),PLAC-I(Pravastatin Limitation of Atherosclerosis in the Coronary Arteries)8)およびREGRESS(the Regression Growth Evaluation Statin Study)9)などの冠動脈定量評価を用いた動脈硬化退縮試験において心血管イベントの発生低下にもかかわらず,動脈硬化進展抑制効果はごくわずかであった。その機序として,スタチンのプラーク安定化作用(LDL-C低下療法およびPleiotropic Effect)が考えられている。 最近の話題として,AVERT(Atorvastatin Versus Revascularization Treatment)10)にて安定狭心症患者にアトルバスタチン80mg/日を投与し平均LDL-Cを77mg/dL以下に低下させたところ,PTCA群に比べアトルバスタチン投与群で心血管イベントの発症率が36%低下したことが報告された。また,MIRACL (Myocardial Ischemia Reduction with Aggressive Cholesterol Lowering)11)は非Q波心筋梗塞や不安定狭心症の急性期の治療効果を検討したものだが,約3000人にアトルバスタチン80mg/日を投与しLDL-Cを123mg/dLから72mg/dLに低下させることで虚血による再入院率が有意に抑制されることが示され,積極的LDL-C低下療法が有効である可能性が示唆された。現在もTNT(Treating to New Targets)やIDEAL(Incremental Decrease in End-Points through Aggressive Lipid-lowering)などの積極的LDL-C低下療法に関する大規模臨床試験が進行中(表1)であり,今後,さらなるエビデンスが得られるものと思われる。 表1 現在進行中の積極的LDL-C低下療法に関する大規模臨床研究
また,近年,イベント発症後の治療開始時期(いつからスタチンを開始すべきか?)についての検討もされており,L-CAD(Lipid in Coronary Artery Disease)やPTT(Pravastatin Turkish trial)などの試験でイベント早期のスタチン投与が再発予防に有効であることが示された(L-CADで平均6日,PTTで6時間)12)。前述のMIRACLではイベント発症24〜96時間以内にアトルバスタチンを開始した結果,死亡率に有意差は認めなかったが再イベントの発生率の低下を認めた。MIRACLでは急性期のPTCA施行例を除外しており,米国あるいはわが国の臨床により則した試験としてPACT(Pravastatin Acute Coronary Treatment)が進行中である。その他にも現在進行中の早期スタチン投与療法に関する試験を表2にあげる。
高LDL-C血症が糖尿病や高齢などの他の危険因子と重複すると,イベント発症のリスクは相乗的に増加することが知られている13)。4S,CARE,LIPIDなどのサブ解析から糖尿病患者や高齢者においてスタチンによる介入がイベント発生率や脳梗塞の発症率を有意に低下させたという結果が得られた14〜19)。しかし,これらの患者だけを対象としたスタチン治療に関する大規模臨床試験は少なく,糖尿病を対象としたUKLDS(United Kingdom of Lipids in Diabetes Study)やASPEN(Atrovastatin as Prevent of CHD Endpoints in NIDDM)などが,高齢者を対象としたRESPECT(Risk Evaluation and Stroke Prevention in the Elderly)やFAME(Fluvastatin Assessment of Morbi Mortality in the Elderly)などが進行中である。 |