I.高脂血症の治療/II.抗血小板薬/III.アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACDI)
/IV.βブロッカー/V.Ca拮抗薬//VI.硝酸薬/VII.我が国の大規模臨床研究/おわりに
1. 一次予防 健常者を対象としたPhysicians’Health Study 20)ではアスピリン325mg隔日投与による一次予防効果が認められたが,アスピリン500mg連日投与をおこなったBritish Doctors’Trial 21)ではその効果は認められなかった。このように健常者に対するアスピリン投与の一次予防効果については議論のあるところであったが,1998年に発表されたHOT(the Hypertension Optimal Treatment)22)で高血圧患者にアスピリンを投与し,心筋梗塞を36%,心血管事故を15%減少させ,一次予防効果が示された。 2. ACSの治療 血流の速い動脈ではvon Willbrand因子を介する血小板血栓が病的血栓の主体であり,ACSにおいて抗血小板療法は有効であると思われる。事実,ISIS-2(Second International Study of Infarct Survival)23)により急性心筋梗塞に対するアスピリン単独投与が5週後の死亡率を23%減少させることが示された。また,急性心筋梗塞に対しGPIIb/IIIa受容体阻害薬であるabciximabが投与されたTAMI-8(the Thrombolysis and Angioplasty in Myocardial Infarction-8)24),TAMI-1425)およびintegrilin(epifibatide)が投与されたIMPACT-AMI(Integrilin to Minimize Platelet Aggregation and Coronary Thrombosis-Acute Myocardial Infarction)26)において再疎通率が向上した。 不安定狭心症に対してもVeterans Administration27)においてアスピリンが死亡率,心筋梗塞発症率とも減少させることが示された。 近年の不安定狭心症に対するGPIIb/IIIa受容体阻害薬を用いた大規模試験でも抗血小板薬の有効性が示されている。abciximab を用いたCAPTURE (Chimeric 7E3 Antiplatelet Therapy in Unstable Angina Refractory to Standard Medical Therapy)28)では6ヵ月後の効果は認められなかったものの5週後の心筋梗塞や再虚血発作発症率は有意に減少した。また,ヘパリンとtirofibanを比較したPRISM(Platelet Receptor Inhibition for Ischemic Syndrome Management)29)では30日後の死亡率はヘパリン群3.6%,tirofiban群2.3%と低値であった。PRISM-PLUS(PRISM in Patients Limited by Unstable Signs and Symptoms)30)でも23%の心血管イベントの減少を認めた。このようにGPIIb/IIIa受容体阻害薬の静注療法の有効性は示され,米国ではACSの症例への投与が推奨されているが,GPIIb/IIIa受容体阻害薬の経口薬であるorbofibanを用いたOPUS 31)やsibrafibanを用いたSYMPHONY 32)ではアスピリンに勝る結果は証明されなかった。 また,ハイリスク患者にPTCAまたはDCAを行ったEPIC(Evaluation of IIb/IIIa platelet receptor antagonist c7E3 in Preventing Ischemic Compli-cations)33)ではabciximab投与群(ボーラス+持続点滴静注)で6ヵ月後の心血管イベントを有意に低下させた(しかし,出血性合併症が多かった)。重症度に関係なくPTCAまたはDCAを施行した患者を対象としEPILOG(Evaluation of PTCA to Improve Long Term Outcome by c7E3 GPIIb/IIIa Receptor Blockade)34)でも心血管イベント発生率は低く,abciximab+少量のへパリンにより出血性合併症の頻度が少なくなった。EPISTENT(Evaluation of Platelet IIb/IIIa Inhibitor for Stenting)35),IMPACT-II36),RESTORE(Randomized Efficacy Study of Tirifiban for Outcome and Restenosis)37)においても冠動脈形成術の心血管イベントの発生率はGPIIb/IIIa受容体阻害薬により有意に減少しているが,長期予後に関する結果は出ておらず,今後さらなる研究が必要である。現在,米国ではACSに対するGPIIb/IIIa受容体阻害薬の投与が認められ使用が勧告されており,多くの大規模臨床試験(表3)が行われている。しかし,わが国では治験中であり,近い将来使用可能になるものと思われる。
3. 二次予防 PARIS(Persantine Aspirin Reinfarction Study)38)およびPARIS-II39)のアスピリン+ジピリダモールの併用で二次予防効果が報告されているが,アスピリン+ジピリダモールがアスピリン単独より優れた効果があるかどうかは不明であった。 心筋梗塞に対する抗血小板薬の効果を検討した11の大規模臨床試験の成績を解析した結果(Anti-platelet Trialists’Collaboration)40,41),抗血小板薬を投与することにより非致死的心筋梗塞は31%,心血管性死亡は13%減少することが報告された。また,アスピリン単独投与で十分な効果が得られ,投与量としては75〜325mgで十分としている。これらのことより心筋梗塞の二次予防にアスピリンは有効であり,AHA/ACC Task forceにおいてアスピリン投与が推奨されている。 安定狭心症患者においてはアスピリンとソタロールを投与したSAPAT(the Swedish Angina Pectoris Aspirin Trial)42)で非致死性心筋梗塞の発症予防効果があることが示されている。 また,STARS(the Stent Anticoagulation Restenosis Study)43)により冠動脈ステント植え込み術後の1ヵ月間はアスピリンとチクロピジンを併用することが亜急性血栓閉塞の予防に有効であることが示された。しかし,チクロピジンには血栓性血小板減少性紫斑病や好中球減少症などの副作用があり,使用できない症例もある。そこで近年,欧米では化学的にはチクロピジンに似ているが血栓性血小板減少性紫斑病や好中球減少症などの副作用の少ないclopidogrelが使用されており,いくつかの臨床試験44,45)にてアスピリンとの併用でチクロピジンと同等の効果が示されている。近い将来,わが国においても使用可能となるであろう。 |