目次へ pagetop
インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント
0 I I' II III IV V VI
V V. NICEとNHSによるリレンザの保険給付
 The National Institute for Clinical Excellence and Coverage of Relenza by the NHS
Andrew Dillon,Trevor G. Gibbs,Tim Riley,Trevor A. Sheldon
熊谷 雄治   北里大学東病院 治験管理センター
エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
序 論(Introduction)
国立クリニカルエクセレンス研究所(NICE)
 (National Institute for Clinical Excellence(NICE))
考察と概括  (Reflection and Generalization)
文 献
用語集(Glossary)
付録1.初回ガイダンスからの抜粋:ザナミビル
 (Appendix 1. Extract of First Guidance: Zanamivir)
付録2.2001年エビデンスのサマリー:ザナミビル (リレンザ) のファスト・トラック評価
 (APPENDIX 2. Summary of Evidence 2000: Fast-Track Appraisal of Zanamivir (Relenza))

付録1.初回ガイダンスからの抜粋:ザナミビル
(Appendix 1. Extract of First Guidance: Zanamivir)
発行:1999年10月
改訂:2000年09月

1.
 NICEは,保健省およびウェールズの議会から,NHSのインフルエンザ治療におけるザナミビル (リレンザ)のガイダンスを,きたる冬期までに準備するよう要請された。このガイダンスは2000年から2001年にかけてのインフルエンザの時期の前に再レビューが行われる。新しいガイダンスは,ザナミビル (リレンザ)と来年認可されると予測されるオセルタミビル(タミフル)をカバーするために発行される予定である。

2.ガイダンスのステータス(The Status of This Guidance)
2.1
 ザナミビル (リレンザ)は,インフルエンザが地域で流行している時期に,インフルエンザの典型的な症状をもつ12歳以上の青年期および成人の患者におけるインフルエンザAとBの治療のために,処方箋による投与のみが英国で承認された薬剤である。
  2.2
 ザナミビル (リレンザ)はNHSにおいて処方が可能である。個々の専門家は,インフルエンザの症状をもつ患者に,どの治療が適切でまた必要であるかを決める臨床的な判断に責任を有している。このガイダンスは個人の裁量権を損なうものでない。現在の最善の治療とともに,ザナミビル (リレンザ)の適切な使用についてアドバイスを与えようとするものである。ガイダンスはNICEの迅速評価委員会の意見の要約であり,入手可能なエビデンスに基づく慎重な審査の結果である。専門家は,個人の臨床的な判断を行う際にこのガイドラインも考慮に入れることが求められている。

3.サマリー(Summary)
3.1
 インフルエンザは,インフルエンザウィルスA,B,またはCの感染による呼吸器の急性疾患である。 主な初期感染の部位は明確ではないが,ウィルスは気道を通じて複製する。インフルエンザでは全身痛,食欲不振,嘔気,嘔吐,激しい乾性の咳などを伴う急な発熱がみられる。ほとんどの患者は,合併症を伴わず,急性症状は3日から5日でおさまる。基礎疾患を有する患者は合併症を起こすことがあり,重篤な疾患や死に至ることがある。
  3.2
 適切な複数の臨床試験からのエビデンスによれば,ザナミビル (リレンザ)を,症状が現れてから48時間以内に使用することで有病期間を1日程度短縮し,中央値で6日間から5日間に減少させる。
  3.3
 臨床試験においてザナミビル(リレンザ)で治療された,危険度の高リスク患者(高齢者,心臓血管疾患患者,喘息,慢性呼吸器疾患,または免疫不全状態の数は限られており,NICEは,薬剤が重篤な二次的合併症の頻度を減らすという結論を下すことはできない。
  3.4
 NICEは知見と結論にもとづき専門家に1999年と2000年のインフルエンザの時期にはザナミビル(リレンザ)を処方するべきではないと助言する。NHSは製薬会社に対し,現在進行している4つの追加の臨床試験を促進するべきである。

…………
6.8
 NICEのガイダンスは1999年と2000年のインフルエンザの時期のみに適用される。ザナミビル(リレンザ)は来年のNICEによる追加評価となるだろう。新しいガイダンスは2000年と2001年のインフルエンザの時期に配布される予定である。

7. その他の情報(Further Information)
 Rapid Assessment Committee に使用されたエビデンスのサマリーは,NICEのウェブサイトwww.nice.org.ukで入手が可能である。
Andrew Dillon
Chief Excecutive
12 October 1999
付録2.2001年エビデンスのサマリー:
ザナミビル (リレンザ) のファスト・トラック評価
 (APPENDIX 2. Summary of Evidence 2000:
Fast-Track Appraisal of Zanamivir (Relenza))
 これは,NICEによって行われたザナミビル(リレンザ) の迅速評価に利用されたエビデンスの要約からの抜粋である。この文書は,保健大臣とウェールズ議会に提出されたInterim Guidanceをサポートするものである。

1.0 イントロダクション(Introduction)
1.1 背景(Background)
  1.2 疫学(Epidemiology)
  1.3 現在のサービスの状況(Current service provision)
 現在のインフルエンザの管理の主な内容は,対症療法と臥床安静である。インフルエンザに罹患した患者の多くは,不快な症状に対する薬剤治療に頼っている。これは風邪やインフルエンザの市販薬(OTC)である。
 インフルエンザに対し,NHSではワクチンによる予防注射と,アマンタジンを用いた抗ウィルス予防法/治療法といった2つの一般的な対策が行われている。
  1.4 ザナミビル(Zanamivir)
 ザナミビルは,選択的インフルエンザウイルスノイラミダーゼ阻害薬という新しい薬効群の最初の薬剤である。それはリレンザという商品名でGlaxo Wellcomeから発売された。ザナミビルはウイルス複製に必須であるインフルエンザA,Bのウィルスのノイラミダーゼに選択的な阻害薬であり,細胞膜糖鎖のシアル酸からのウイルス脱出を抑制する。続いて,感染した細胞の表面から新しく形成されたウィルスの拡散を防止することにより感染を予防し,また呼吸器の粘液へのウィルスの拡散を防止する。ザナミビルはEuropean Licensing Authoritiesにより承認され,英国では1999年9月に承認された。承認された適応症は,地域においてインフルエンザが流行している時期に,インフルエンザの症状をもつ成人と12歳以上の青年期(adolescents)のインフルエンザAとBの治療である。薬剤の形は,吸入器 (Diskhaler)により服用される粉末の製剤である。1日2回の吸入を5日間,1日あたり合計20 mgが投与される。治療は症状が現れてから48時間以内に開始されるべきであるとしている。

2.0 方法(Methods)
2.1 エビデンスの内容(Identification of Evidence)

2.2 エビデンスの選択 (Selection of Evidence)
 ランダム化比較試験を用いて,ザナミビルとプラセボあるいは成人のインフルエンザAかBに感染した患者の通常治療法と比較している研究を採用した。研究が(1)ザナミビルをインフルエンザの予防に使用している場合と(2)ザナミビルの承認された用法・用量でないものは除外された。

2.3 エビデンスのクオリティの評価(Assessment of the Quality of Evidence)
 ザナミビルの研究のクオリティは,(1)ランダム化の手法が明確であること,(2)盲検の完全性,(3)ITT(intention to treat)解析,(4)脱落症例に関する記述の明確性,などをもとに評価された。

3.0 結果(Results)
3.1 除外された試験 (Excluded Trials)
 11のランダム化比較試験が見出されたが,そのうちの1つは未発表であった。このうち,7つの試験は除外された。4つは用法・用量が異なることが理由であり,3つは予防法に関する研究であったことによる。このうち1つは実験的に誘発されたインフルエンザを対象にしていた。

3.2 使用された試験 (Included Trials)
 3つのザナミビルの試験がこのレビューのための条件を満たしていた。これらはすべてGlaxo Wellcome による第III相試験であり,それぞれが異なる3つの大陸で行われた。
 (1)NAIB3001 - 南半球,(2)NAIA3002 - 北アメリカ,(3)NAIB3002 - ヨーロッパである。すべての試験はランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験であった。南半球での試験(NAIB3001)の内容のすべては発表され,北アメリカ(NAIA3002)とヨーロッパ(NAIB3002)の試験は学会のアブストラクトとして発表されていた。3つの試験をプールした(integrated)分析については,企業からも提出された。またプール分析の結果については論文がすでにアクセプトされているが,この報告書の時点では未刊行である。これらの試験の主要評価項目は,症状が緩和する時期である。またそれ以外のアウトカムには,合併症,抗生物質の使用,また通常の生活に戻る時期などを含んでいた。
  3.3 経済評価 (Economic Evaluation)
 ザナミビルの経済分析は見出されなかった。ザナミビルの費用対効果のモデルと予算の影響は,医薬品業界からの提出資料に示されている。
  3.4 研究の詳細(Details of Selected Studies)
 この報告書に含まれた3つの試験の詳細は,表1に示す。すべての研究はランダム化の方法が明確で,患者,医師らスタッフ,評価者は,薬剤割付が盲検化されており,解析はITTであった。
  3.5 医学的効果(Clinical Effectiveness)
 結果はITT解析により評価され,解析対象群は(ランダム化されたすべての患者と臨床的効果を評価可能例)インフルエンザ陽性群と,高リスク群(慢性呼吸器疾患,高血圧を除く心血管疾患,代謝疾患,また免疫不全患者,および65歳以上の高齢者)などである。
3.5.1 症状の緩和(Symptom Relief)
 ザナミビルは症状を中央値で1日(95%CI:0.5から1.5日)短縮していた(表2参照)。
ITT解析では,インフルエンザ陽性群と高リスク群におけるザナミビルの症状の緩和の程度は,試験により異なっていた。北アメリカにおける試験では,有意な症状の緩和はみられなかった。

3.5.2 合併症 (Complications)
 全体では,ザナミビルを用いた場合に合併症の発生に明らかな減少がみられた(7%,95%CI:3%から11%)(表3参照)。高リスク群では合併症は13%の減少がみられたが,北米での試験では9%の増大がみられた。インフルエンザ陽性群と高リスク群での抗生物質の使用減少,[4%(0%から8%),5%(0%から9%,p=0.037),7%(CIは不明,p=0.33)]からも合併症の減少がうかがわれた。
  3.5.3 コストとその削減 (Cost and Savings)
 英国におけるザナミビルの予測されるコストは,5日間の治療で24ポンドである。企業からの提出資料は詳細な経済分析を示しており,ザナミビルのヘルスサービスへの直接コストはこの数字より低いものとされる(18.52ポンド)。この企業から提出されたコストの減少は抗生物質にかかるコスト,GPの診療コスト,また再入院に伴う入院患者のコストの減少の結果であった。この分析は多数の仮定を用いた経済モデルにもとづいている。たとえば,再入院は第III相試験により直接観察したものでなく合併症の割合から予測したものである。早期に通常の生活に戻る場合の間接的なコストもモデル化された。ザナミビル により,社会に対し,各患者につき21.51ポンドが削減されると報告された。
  3.5.4 費用対効果と費用対有用性(Cost Effectiveness and Cost Utility)
 医薬品業界からの提出資料では,ザナミビルに対する直接的なコストは18.52ポンドで,インフルエンザの有症状期間を1日減少するとしている。費用対効果の割合は,ザナミビルによる症状緩和の18.52ポンド(1日あたり)の増加であった。ザナミビルの直接的なコストが24ポンドならば,このコストは24ポンドまで上昇する。

4.0 ディスカッション(Discussion)
4.1 結論(Conclusion)
 インフルエンザ治療におけるザナミビルは,約1500人を対象とした,3つのランダム化二重盲検多施設試験により評価された。現在これらの試験のうちの1つに関して完全なデータが入手可能である。
 3つの試験結果から,ザナミビルが症状の緩和までに要する時間と合併症の減少に関して有効であるというエビデンスが認められた。最も大規模の試験であった北アメリカの研究では,症状の緩和までの時間の有意な短縮はみられなかった。パラセタモール錠と鎮咳配合剤使用の平均値は北アメリカの試験が他の2つの試験より高かったというエビデンスが報告された。しかし北アメリカの試験で,ザナミビルとプラセボ群を比較した際には,対症療法に用いられる薬剤使用に差があるというエビデンスはほとんどなかった。これらの結果は,英国においても,インフルエンザ患者の管理に対症療法薬を使用していることを考慮に入れる必要がある。
 費用対効果の割合は(ザナミビルによって短縮された症状のある日数に要するコスト)企業の提出資料で示されているが,症状の緩和までの時間やコストの計算の多くは仮定にもとづくものであるなど矛盾があるため,そのような分析は疑わしいものであるとされた。

4.2. NHSのための考察(Implication for the NHS)

4.4 現在と将来の研究(Current and Planned Research)
 Glaxo Wellcomeは現在行われているもの,または今後着手される予定のものを含めてザナミビル治療の4つのランダム化二重盲検プラセボ対照試験の存在を把握している。これらは高リスク患者,高齢者,小児患者グループへの効果と影響を検討するデザインである。Glaxo Wellcomeは,これらの試験における症例登録は遅れており,最終結果が発表されるのは,早くて2000年の10月としている。
BACK  
インフォーミング・ジャッジメント
インフォーミング・ジャッジメント