患者報告アウトカム
(Patient-Reported Outcome:PRO
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厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集

理解を深めるための参考資料

1. 日本における患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
     使用ガイドライン開発のための予備調査

日本におけるPRO使用ガイドラインを開発するにあたり、次の2つの日本における現状の調査と諸外国におけるガイドラインのレビューを行った。以下ではその概要を説明する。

1.1. PRO評価の関係者におけるニーズ調査

日本においては従来、患者報告アウトカム(Patient-reported outcome: PRO)評価やその応用に関係する人々を対象としたガイドライン、あるいはePROのような情報通信技術(information and communication technology: ICT)に対応したガイドラインが開発されてこなかった。日本で利用可能なPROの使用に関するガイドラインを本研究班で作成するにあたり、PRO評価に日常関わっている、産業界、行政、臨床家、研究者などを対象として、PROガイドラインへのニーズ、ガイドラインで扱うべき内容(測定・評価・解釈や応用方法)に関するインタビュー調査およびweb調査を実施した。

インタビュー調査ではまず、医薬・医療機器業界の代表者、薬事規制当局の担当者、研究者でもある医療関係者、QOL(quality-of-life)評価の専門家、医療経済評価および医療技術評価(health technology assessment: HTA)の専門家、の5名を対象に、約1時間のインタビューによる調査を実施した。インタビュー内容は、「PRO評価や応用で困っていること」「ICT(ePRO)に関する課題」などであった。次に、臨床医253名、製薬・医療機器企業の勤務者の内、臨床試験に携わった経験のある者249名を対象にweb調査を実施し、インタビュー調査で確認された項目を定量的に把握した。

インタビュー調査では、PRO評価全般に関しては、計画や実施、結果の解釈や応用においてニーズがあり、ICT(ePRO)については様々なプロセスにニーズがあることが明らかになった。一方、web調査では、インタビュー調査と同様、結果の解釈や応用にニーズが多い事が定量的に確認された。今回のPRO使用ガイドライン作成にあたってはこれらのニーズに留意し、また定量的な回答は少なかったものの、ICT(ePRO)の利用やHTAへの応用についても、将来の社会の動向を踏まえると含むべきであると考えられた。

1.2. PROの概念に関する関係者の認識

PROは、臨床試験や臨床現場、意思決定に広く用いられており、米国FDA(Food and Drug Administration)1 や欧州のEMA(European Medicines Agency)2, 3 の他、カナダのCanadian Institutes for Health Researchによる研究班 4 などがそれぞれの定義を示している。しかし、PROの概念が、従来使われていたQOLとどこが一致し、どこが異なるのか、についてはよく理解されていないように見受けられる 5 。本調査では患者と医療関係者(医療従事者と企業勤務者)のPROの概念と、PROとQOLとの関係性に関する認識を調査した。

方法は、まず患者会代表者、医薬・医療機器などの産業界の代表者、臨床医、研究者など数名を対象に、約1時間のインタビューによるパイロット調査を実施した。インタビューでは、PROの概念に対する認識、PROとQOLとの関係性、PROをQOLと比較した場合の測定の困難さや多次元性の有無などについて質問した。次に、医療従事者約250名、製薬・医療機器メーカーで臨床試験に携わった経験のある社員約250名、患者約500名を対象にweb調査による定量的調査を行った。web調査には、インタビューで使用したものと同様の質問項目を用いた。

インタビュー調査の叙述的な分析の結果、PRO と QOL の関係は、静的なものではなく、「PRO が患者の QOL を改善することもある」 というような動的な関係が抽出された。web調査では、PROとQOLの関係について、どちらかがどちらかを完全に包含するのではなく、「一部異なる」という回答が最も多く、次いで「QOLはPROを含む」が多かった。これらの回答はインタビュー調査で得られた回答と同様であり、一部の海外のガイドラインの説明 6 とは異なるものの、臨床試験 3 、臨床現場 7 や応用 4 のためのガイドラインの記載とは合致していた。

本調査結果は、今回開発した「臨床試験におけるPRO使用ガイダンス」の記述においても参考にした。結果の詳細は2023年1月時点で論文投稿中である。

1.3. 諸外国におけるPRO関連ガイドラインのレビュー

日本でのガイドラインの開発にあたり、その内容や記載の参考とするため、諸外国からすでに発行されているPRO関連ガイドラインのレビューを行った。レビューでは臨床試験や研究における測定・評価、臨床現場における評価の実践や結果の応用、一部、HTAにも役立つ情報を収集、抽出した。

検索対象のデータベースとしては、学術論文だけでなく書籍も用いた。データベース検索によって得られるもの以外に、それらの参考文献や専門家から推奨されたガイドラインをハンドサーチで含めることにより検索の網羅性を担保した。使用データベース、検索キーワード、最終的な文献の選択基準は書誌情報検索の専門家や臨床疫学の専門家などの議論により決定した。

結果の詳細は、2023年1月時点では論文投稿中であるため、ここでは概要のみ記載する。

検索期間は2009年から2020年で、検索では約1000件の論文と約500冊の書籍がヒットし、最終的に20数件の論文情報と1冊の書籍情報が残った。それらの多くは、臨床試験や研究における測定に関するもので、ePRO 情報も含まれた。次いで、臨床現場での評価に関するものやHTAへの応用に関する情報が抽出された。

臨床試験や研究におけるガイドラインは、ePROを含むPRO測定の計画や報告、質問票の選択、データ解析、臨床的な解釈などに関するものが多かった。一方、臨床現場におけるガイドラインは、PRO評価の実践と結果の臨床応用方法を呈示していた。なお、本レビューで抽出された文献情報の一部は、「臨床試験のためのPRO使用ガイダンス」の巻末に掲載した。

    参考文献

  1. FDA: Guidance for Industry. Patient-Reported Outcome Measures: Use in Medical Product Development to Support Labeling Claims. In.: Food and Drug Administration; 2009.
  2. EMA: Reflection paper on the regulatory guidance for the use of health-related quality of life (HRQL) measures in the evaluation of medicinal products. In. Edited by (CHMP) EMA. London: European Medicines Agency; 2005.
  3. EMA: Appendix 2 to the guideline on the evaluation of anticancer medicinal products in man. In.: European Medicines Agency; 2016.
  4. Mayo NE, et al. Montreal Accord on Patient-Reported Outcomes (PROs) use series e Paper 2: terminology proposed to measure what matters in health. J Clin Epidemiol. 2017; 89: 119-24.
  5. Costa DSJ, et al. How is quality of life defined and assessed in published research? Qual Life Res. 2021; 30(8): 2109-121.
  6. Fayers P, Machin D. Quality of Life: The Assessment, Analysis and Interpretation of Patient-reported Outcomes (3rd ed., pp. xiii-xiv). Wiley. 2016.
  7. Snyder CF, et al. Implementing patient-reported outcomes assessment in clinical practice: a review of the options and considerations. Quality of Life Research. 2012; 21(8): 1305-14.

(兼安 貴子、下妻 晃二郎)