患者報告アウトカム
(Patient-Reported Outcome:PRO
評価関連 特設ページ

厚生労働省科学研究班開発
患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)
使用についてのガイダンス集

理解を深めるための参考資料

2. PRO-CTCAEの結果の提示をどのようにすべきか

2.1. PRO-CTCAEの図表化のスタンダード

PRO-CTCAEはPROによって有害事象を評価するツールである。評価する属性としては、程度、頻度、生活への支障、量、有無が設定されている。頻度、程度、生活への支障、量については0 ~ 4、有無については0/1でスコア化される。つまり、1つの症状に対して最大で3つの属性によるスコアが得られることになる。これらをどのように図表化するかなどについては、本稿作成時点では確立された方法は定まっていない。スコアリングについては、NCIのPRO-CTCAEのサイトにある「Frequently Asked Questions」で情報が更新されており、研究者には小まめにチェックすることをお勧めする 1

2.2. ePRO使用時の条件分岐(スキップロジック)の活用とそのスコアリング

回答に対する患者負担への配慮から、PRO-CTCAEによる評価にePROを用いる場合、条件分岐の使用が認められている。例えば、腹痛の質問項目では、頻度、程度、生活への支障の順に3つの属性が提示される。この1問目の頻度の質問項目に対して「0:なかった」を対象者が選択した場合、程度、生活への支障の質問項目をスキップすることができる。同様に、頻度に「0:なかった」以外の回答を選択して程度の質問項目に進み、そこで「0:そういうことはなかった」を選択した場合でも、最後の生活への支障の質問項目をスキップすることができる。紙によるPROではできない、対象者の回答による設問の表示 / 非表示の設定が、ePROでは実装可能である。

条件分岐を実装した場合の注意点は、スキップされた質問項目の回答について、欠測値と混同されないようにすべきであることが挙げられる。スキップされた質問項目のスコアは最終的に「0」として処理できるようにする必要がある。

なお、欠測値の他に、「性交はしていない」「回答辞退」といった回答の選択肢が設定されている質問項目がある。これらは選択された割合を算出できるようにデータ収集をすべきである。

2.3. ベースラインによるスコアの調整

対象の病期によっては、治療開始前(ベースライン)にすでに多様な症状を有していることがある。例えば、治療中のある時点で「吐き気」の頻度に対して「2:ときどき」と回答したとする。この対象者のベースラインの回答が「0:なかった」であれば、治療開始後に生じた有害事象と把握することができるが、一方で「2:ときどき」と回答していた場合、治療開始後に生じたものと判断ができない。このように、研究の対象によっては、いわゆる「試験治療下での発現(Treatment Emergent)」である有害事象として評価する必要がある場合がある。具体的には上述の例において、ベースライン「0」→ある評価時点「2」であれば、その評価時点のスコアを採用するが、ベースライン「2」→ある評価時点「2」の場合はスコアを採用せず、つまり0とスコアする。このようなベースライン値による減算を行う方法もあり、結果の公表時には集計方法について明示することが望ましい。

2.4. PRO-CTCAEによって得られた結果の提示

2.4.1. 各属性のスコアの記述的な提示

膨大な量になる可能性はあるが、得られた結果の要約統計量、グラフ化などによって記述的に示すことが基本的な提示方法となる。特に、対応する期間のClinROであるCTCAEによる評価がある場合は、PRO-CTCAEの評価と一緒に示されるべきとされている。標準化された方法はないが、Baschらが例示した図表などを参考にされたい 2

2.4.2. Composite grading

PRO-CTCAEの各属性をスコアは、Patient Experienceを理解するのに有用である一方で、CTCAEやMedDRAの対応の必要性から、各症状について単一のスコアにマッピングする方法が検討されている 3。例えば、腹痛には3つの属性があるため、スコアも3つ得られるが、Composite gradingをすることで1つのスコアとして表示できるようになる。詳細は割愛するが、まだ研究段階の方法であり、必ずしもこの方法を用いるべきというものではない。

2.5. まとめ

以上の通り、簡易にではあるがPRO-CTCAEの結果提示について述べた。Patient Experienceが重要視されており、今後、医薬品の安全性評価にPRO-CTCAEが活用されるよう、さらなる研究が進んでいくだろう。それに伴い、PRO-CTCAEのスコアを含め様々な情報が年々更新されていくことが予測され、常に最新情報を気にかけていただきたい。

    参考文献

  1. National Cancer Institute. https://healthcaredelivery.cancer.gov/pro-ctcae/faqs.html
  2. Basch E, et al. Methods for Implementing and Reporting Patient-reported Outcome (PRO) Measures of Symptomatic Adverse Events in Cancer Clinical Trials. Clin Ther. 2016; 38(4): 821-30.
  3. Basch E, et al. Composite grading algorithm for the National Cancer Institute's Patient-Reported Outcomes version of the Common Terminology Criteria for Adverse Events (PRO-CTCAE). Clin Trials. 2021; 18(1): 104-14. doi: 10.1177/1740774520975120. Epub 2020 Dec 1. PMID: 33258687; PMCID: PMC7878323.

(川口 崇、宮路 天平、山口 拓洋)